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ビューティフルピープル・パーフェクトワールド1巻 感想【ネタバレを含みます】


ビューティフルピープル・パーフェクトワールド(1)

 

 高度な整形医療が当たり前になり、日常の風景の内、人間の美しさだけが大きく変わった社会で、それでも変わらない人間の歪さと、生きるということについて回る心の重みを描く、「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」1巻の感想です。

 

「美しい世界」を通して浮き彫りになる人間の歪さ

 この漫画はタイトルからして皮肉がたっぷりと聞いています。

 現代日本と比べて、日常の景色は大きく変わらず、美容整形医療の技術だけが大きく進歩した社会という世界観。

 そこで描かれるのは、独特の世界観のフィルターを通しながらも、現実の世界のそれに通じる人間や社会の歪みと、生きる苦しみです。

 タイトルに込められた意図は、作中の世界への皮肉であると同時に、現実の人間社会への皮肉なのだと、読んでいてそう感じました。

 美しいことが当たり前の社会なので、登場人物の多くは美しく、漫画の画面の濃淡も涼しげな印象です。物語としても美しさを感じるエピソードが多く、その上で、人間の醜さや、社会の歪さ、生きていく上で感じる心の重さというものがしっかり描かれていました。

 大衆や、個々人が抱える歪さが描かれながらも、それに批判的な目を向けたり、傷つけられたりする側も何処か歪んでいるという構図がリアルで、それなのに物語は切なく、感傷的な気分にさせられました。

 人や社会が本質的に変わろうとするよりも、仮初の美しさを取り繕おうとする世界を見せられたせいか、「歪なものや醜いものだらけの世界を描いているのに、物語がこんなに綺麗なのはずるい」と思ってしまいました。

 物語は短編4話と、1つあたり2ページのショートエピソードが3つの構成。以下は1話から4話それぞれの感想で、タイトルはそのままとなっています。

 

思春期

 ひだまり中学校、2年A組で「顔をいじっていない」生徒は2人だけ。

 親が凄腕の美容外科医ということもあり、周囲にはすっかり整形しているものだと思われるくらいの天然美形の「伊荻」と違い、山本さんは一目で整形していないことがわかる顔立ちです。

 見た目ばかりを気にするクラスメイトに辟易していた伊荻は、彼女のことが気になっていましたが、ある日彼女が担任の先生に、高校へは行かないと言っているのを聞いてしまいます。

 山本さんの強かで現実的な1つ目の秘密と、夢見がちだけれど生きていくために必要な2つ目の秘密のギャップが印象的でした。

 山本さんの1つ目の秘密は「マニア向けのお店」で年齢を偽って働いていたこと。2つ目の秘密は背中に施されていた実際に飛ぶこともできる翼、その翼を手に入れるために大金を費やしたということ。

 2つ目の秘密を知った場面で、高校に行くべきだと山本さんに言っていた伊荻が、それ以上何も言えなくなってしまった理由が、言葉ではなく、その表情で表現されているのが素敵でした。

 山本さんを気にかけていた伊荻の本心と、読者に伏せられていた伊荻の事情も含めて、タイトルに納得のいく1話目でした。

 

パチモン美少女in南国

 ある日、実家に帰ったら、引きこもりだった兄がアニメ美少女になっていたという事件から始まるお話。

 顔だけでなく体の性別も変更済みで、しかも同じアニメ美少女整形をした相手と、元男同士で結婚するという急展開に振り回される弟の修二。

 結局、結婚は破談となるのですが、修二と兄と両親は、結婚式に使うはずだったモルディブへ旅行に行くことになります。

 整形技術が発展した未来という世界観ですが、アニメ美少女になった兄の声がどうなっているのかが、読んでいてずっと気になっていました。

 1話目でも、極端なこだわりの整形を自身に施す整形外科医や、現実離れした超技術も披露されていたので、元ネタのアニメの声優に声を似せる身体改造ぐらいはしているのかなと思いつつも、特にその辺りには触れられずにもやもやしました。

 誰でも美しくなれる世界でも、他人と自分を比較しながら生きる辛さはついて回るという生々しさが描かれながらも、それをさわやかな漫画に仕上げてしまう構成力に驚きました。

 特に、兄を見下していたかった修二が、その事実を突きつけられる場面が凄かったです。

 「…見上げるのは、しんどい。見下されないよう、努力することも、正直でいることも、…しんどい。」という独白と共に、泳ぎ疲れてしまったかのように、鮮やかな南の海の底へ沈んでいく修二の図。

 生々しい辛さや醜さを描きながらも、さわやかなビジュアルイメージで表現できてしまうセンスが凄いです。

 南国で就職に成功しつつも、コミカルに思惑を外される兄。自分の歪みを顧みて一皮むけた修二。

 そのまま明るい感じで終わらせるのかと思ったら、修二と一緒に帰国したガイドの青葉さんが空港で辺りを見回して、「――ねえ、あたしのカオって、地味?」と呟いて終わるという意味深長なラスト。

 第2話の登場人物で一番人間ができていそうな彼女ですらも、常に他人と自身を比較する人の業からは逃れられないのだと言われたみたいです。

 

いつまでもコドモのままでイタイの

 整形医療が進んだこの世界でも、身長を大幅に変えることだけは不可能らしいです。

 主人公は刑事の堀口香澄さん。彼女は身長が143cmしかなく、その体格を活かして児童買春のおとり捜査をしています。※この世界では児童を対象とした性犯罪に対しておとり捜査が認められています。

 小学校の同級生だった豪くんが初恋だった彼女は、大学生の時に「豪くんの初恋である小宮さんの小学生の時の顔」に整形して豪くんに告白。数年後に入籍しました。

 初恋相手の初恋の相手の初恋当時の姿をコピーして告白するという思いきった方法には、驚くばかりです。

 夫との関係はおおむね良好ながらも、「自分が初恋相手の偽物」であることへの劣等感を引きずり続け、苦しみを抱えています。

 おとり捜査の仕事、性犯罪被害者の少年・雅樹くんとの交流、旦那さんとの関係、心の内側に抱え込んでいるものと、いろいろな場面が目まぐるしいエピソードですが、それぞれの場面に共通して絡んでくる要素は彼女の「子供にしか見えない外見」。

 読み終えた後で、この話のタイトルと扉絵を見直すと「他人にどう見られるか」ということが、彼女の人生に与えた影響を考えさせられるお話でした。

 雅樹君と並んで街を歩く彼女の「大人たちを見上げる視点」が描かれた1コマも印象的でした。

 

スーパースター

 1人カラオケをしていたところをスカウトされた歌手の守屋邦と、その守屋邦をスカウトしたマネージャーの広瀬、そして1話目で出てきた山本さんのその後の人生のお話。

 病で守屋邦が倒れ、病院で初めて彼女の実年齢を知った広瀬が驚く場面では、私も驚きました。

 誰もが若い姿のままでいられる世界での「一般的な老人」のイメージがどのようなものかはわかりませんが、彼女の音楽活動も性生活もとても老人とは思えず、一方で、年をとっても自由で若々しい生き様はロックスターなどに居そうなイメージだと妙に納得もできてしまいました。

 「それから3か月後、彼女は息を引き取った。」のコマの守屋邦の笑顔は、若いはずの顔に老人の表情を感じ、いろいろなものを押し殺して無理に笑っている様でもあり、遺影の様でもあり、いろいろなものを感じ取れる1コマでした。

 「守屋邦」の顔と立場を継いで、影武者になった山本さんが舞台に立っているのも、その次のページで朽ちた翼を広げて歌う姿ももの悲しいです。

 結局、彼女の翼は朽ちてしまったのですね。実験体だったから何か問題があったのか、メンテナンスをするお金がなかったのか、あるいは翼を失うに至る何かがあったのか。

 彼女が翼を失っていたこと、守屋邦として舞台に立っている事実。その山本さんの表情。もの悲しさの相乗効果が凄いです。

 恐らくは恋人だったのだろう人間の顔・名前・立場そのものを継いだ山本さん。

 それまで広瀬の前ではほとんど喋らなかった彼女が、彼に初めて感情をぶちまけたのが、守屋邦への想いだったという部分も好みでした。

 生前の守屋邦と山本さんの物語ももう少し見てみたかったと思いました。

 

 

 感傷的で透明感のある物語に、目が疲れずに必要な情報の入ってくる絵と、わかりやすいシンプルなコマ割りで読みやすい漫画でした。曖昧さと余韻を残す演出もそれにマッチしていて、とてもさわやかな読み心地で引き込まれました。

 一方で、曖昧さを残す描写の仕方は、登場人物が何を考えていたのか、感じていたのかが掴み切れずにやきもきすることもありました。