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魔女の下僕と魔王のツノ10巻 感想【ネタバレを含みます】


魔女の下僕と魔王のツノ 10巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 
 
サウロが加わったことで、一行の人間関係にも変化が起こります。魔女の下僕と魔王のツノ10巻の感想です。

 

アルマ一時退場

10巻の最初の話・54話から、いきなり男に戻っているアルセニオ。

思わず舌打ちが出ましたが、その直後に仕立て屋のハリネズミ夫妻が持ち込んだのはアルマのベルテイン(※魔女集会)用のパーティードレス。再登場の予感にガッツポーズが出ましたね。アルマはエリックと並んでこの漫画でも特にお気に入りのキャラクターです。

エリックはいろいろ突き抜けて周囲を振り回すところが、アルマは突き抜けきれずに自分の性別の変化に振り回されているにも拘らず、天然で周囲を振り回すところがいいですね絶妙に笑えます。なおエリックはエリックですが、アルマとアルセニオは区別して考えています。

 

魔王との和解

 魔王と和解し、魔王城再建に協力する一行。イスパニアの魔王城攻撃で人間側にも魔物側にも相当血が流れたはずなのに、あっさりしすぎている気もしますが、この漫画のノリならありですね。陰惨なのよりも楽しい方が似合います。

 しかし、シリアスな場面でも容赦なく流れをぶち破ってギャグを投下してくるのは流石と言うべきか、相変わらずと言うべきか。

 魔王の腹心の部下・ホショクアザラシの命を救ったベティの言葉で、融和ムードになったと思ったら、次のページでいきなりサウロとレイが魔王の背後からツノを獲りにとびかかる等、本当にいきなりそれまでの流れとそれまでの空気をぶち破ってきますね。「今だ!!」、「今じゃない!!」と同じコマの中でアルセニオがツッコミを入れているのもテンポが良くていいです。

 人間から魔物になって、魔女の魔法で男から女になるという経験もして「全部になってみてどこからどこまでがどの心なんて計れないことにやっと気づいた」と言うアルセニオ。

 ありもしない境界線を探して、無理やり線を引いて、自分で溝を作ってきたという告白をし「この溝を埋めたい」というアルセニオですが、魔王が「女になった」という部分に食いつくというオチがつきました。

 自分が魔物であることに傷つき続け、ベティとビビアンのために自ら魔物であることを選び、視野の広い考え方に触れたり、自分を縛っているものが自分の偏見であることに気付いたりと、これまで苦しみ悩みながら考え続けてきたアルセニオ。

そんな彼がようやくたどり着いた答えであり、この漫画のテーマ的にも重要な見せ場だと思うのですが、その直後にこんなオチをつけるのも流石としか言いようがありません。

 まあ、相手が魔王キングブルの時点で真面目になればなるほどギャグにしか見えない構図になるので、今更な気もしますが。※魔王キングブルは二頭身のゆるキャラのような外観をしております。

 

弱肉強食が自然の摂理ともてはやされるのは気に食わないエリック

魔力不足で体が崩れはじめ、死にかけの魔物・ブレンダ。ブレンダ自身も弱った自分が死ぬのは自然の摂理と受け入れている様子でしたが、エリックが取引を持ち掛けます。

 そもそも、エリックがなぜブレンダを助けようとしたのかという動機が「弱肉強食の思想が嫌いだから」という理由。生まれつきの重い疾患を抱えて生きてきたエリックの人生観が窺えていいです。

単に感情的に否定するのではなく、生物の多様性こそが種の存続につながるという理論武装をしっかりしているのもエリックらしいです。

 魔王城に植える種芋で、多様性とリスクヘッジの説明をするエリック。そんなエリックに「色々あった方が楽しいでしょ」と全く別の観点から多様性の真理を伝えるベティ。

この漫画のこういった所が好きです。

 登場人物の生い立ちや性格が背景にしっかりあって、感情的な部分も、理性的な理論の話もちゃんと筋が通っていて、誰か別の人間と関わることで見えてくるものについても描かれています。その上でちゃんと楽しかったり面白かったりする所が素敵です。

 「(弱肉強食が)自然の摂理ともてはやされるのも気に食わん」とまで言っていたエリックが、ベティの言葉に噴き出すところまでの流れが好きです。

 

渋々抜かれる伝説の剣

 魔王城の庭に祭壇付きで保管されていた伝説の剣。

 選ばれた者にしか抜けないということですが、サウロが祭壇に近寄って行った辺りでどうせ抜いちゃうんだろうなとは思っていました。

 そこまでは予想通りだったのですが、その後が想像のはるか斜め上でした。

 剣から製作者の思念体が現れて、如何にも剣と魔法のファンタジーといった趣で、サウロが剣にふさわしい者に選ばれたと告げて消えていきますが、アルセニオの手作りの導具の方が欲しいサウロは、何もなかったかのように剣を台座に戻します。

 アルセニオの説得の末、アルセニオ作の導具を貰う約束を取り付け、さらに自分にとっては伝説の剣よりもアルセニオが作った導具が大事であることを念押しした上で、サウロはようやく渋々と伝説の剣を抜きました。

 伝説の剣の扱いがひどすぎて笑えます。扱いの酷さに加えて一連の流れのテンポがいいのがこれまた笑いを誘います。

 表紙裏のおまけページで伝説の剣の来歴が語られていましたが、こちらも想像の斜め上でした。

 来歴が完全にギャグなので、この剣は物語の展開に重要な意味を持っているというよりは、単なるサウロのパワーアップアイテムという感じでしょうか。あるいは剣に認められたという事実自体が重要なのかもしれません。

 もち先生の事なので、予想を斜め上に外してくることは十分に考えられますが。

 

ロイドの告白

 サウロの加入の影響で一行の人間関係にもいろいろと変化がありましたが、一番急激な影響があったのがロイドとエリック。

 レイとの関係にけりがついたロイドは、サウロの助言もあり、みんなで星を見に行った夜にエリックを連れ出します。

 そして前置き無しで「エリックが好きだ」とストレートに告白。アルセニオに告白した時のレイといい、ヒュペルボレア勢の直球豪速球ぶりが凄いですね。さすが狩猟民族。

ロイドのいきなりの告白に混乱して、語彙力が貧困になるどころか、意味のある言葉が出てこなくなったエリックが面白かったです。エリックはいろいろな面白ポイントのある愉快なキャラクターですが、この反応はまた新しいです。

魔法の事故で女になってしまったレイに対して、ロイドが責任をとろうとしていたことの根底の部分に、エリックに対する想いがあったことが描かれていたのも、とても良かったです。

口さがない親族や世間から、病弱な自分の身体の事で家族が傷つけられてきたというトラウマを抱えているエリックは、自分の周りで起きた不幸を自分のせいだと抱え込む癖があります。

体調を崩して、意識がもうろうとしている状態のエリックが自分自身を責めているのを見たロイドは「レイを幸せにする」ということに対して、レイ本人だけではなく、エリックに対しても責任を感じていたのですね。

エリックはエリックで、世界を旅するというロイドの夢に、一緒に旅をするのに病弱な自分では駄目だと諦めてきたわけです。空想の中で、ロイドの傍らで旅をする自分の姿すら、何度もレイの姿で上書きし続けて。

ロイドがレイに感じていた友情も、エリックのレイに対する家族愛も本物ですが、今まで描かれてこなかった部分に、レイを間に挟んだ複雑な2人の想いがあったというのは、人と人との関係を描く物語として、とても私好みの形でした。

人間関係って、当事者同士だけではなく、周囲の人間との関係や、周囲の人間への想いも絡んで変わっていくものですよね。レイを間に挟んだ2人の想いが描写されたことで、とてもすっきりとした気分にもなりました。

 

 

レイとロイドをくっつけようとしてアルセニオを誘惑していた頃のエリックのエピソードも、改めて読むとその心情をいろいろと深読みできそうです。知的好奇心が暴走しすぎて変態の域に突入していたことも、決して嘘ではなかったのだと思いますが。

エリックは周囲を振り回すパターンも、周囲に振り回されるパターンも違った面白さがありますが、ロイド絡みで照れたり、恥ずかしがったりするエリックはもっとみたいですね。

実家の家族になんて報告をするのかもとても気になります。その場面をぜひ見てみたいです。

ロイドとエリックがカップル成立したと思ったら、今度はベティがお姫様だったというまさかの事実が明かされ、アルセニオとベティとビビアンの過去のエピソードへ。

魔王とも和解しましたし、今後は魔女業界関係の展開へ続くのでしょうか。

この作品は、1話単位で見ても、巻ごとの盛り上がりで見ても、テンポが良くて中弛みしないので、安心して続きを楽しみに待つことができます。