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ニッケルオデオン【緑】感想【ネタバレを含みます】

 

ニッケルオデオン「緑」 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン「緑」 (IKKI COMIX)

 

道満晴明先生の短編集、ニッケルオデオンの2冊目。11話を独特のセンスで組み上げています。ニッチなテーマも相変わらず多めでした。

 

お約束の状況×普通じゃない発想

お約束の状況から始まる話も、ニッチな題材を使った話でも、話の転がり方がおかしいです。

少したとえ話をしますが、カレーに果物を入れたり、甘いお菓子の材料に風味の強い香辛料を使ったりといった話を聞いたことはないでしょうか。完成品の味から考えるとびっくりするようなとんでもないものが隠し味になっていることがあります。

この作品はとんでもない食材を隠さずに1つずつ順番に見せながら調理し、きれいな料理を作っているかのようです。ケーキが辛かったり、カレーが甘かったりするかもしれませんが。

何が言いたいのかというと、とにかく発想がおかしい。

いわゆる様式美という意味での「お約束」の状況から始まる話でも、途中で変なものが混ぜられてとんでもない方向に進んでいきます。

あるいは、そもそもの出発点からして独特すぎる発想の産物からのスタートになっていたりもします。

 例えば、3話目の「かわずカース」。魔女の呪いでカエルにされた姉とその妹が呪いを解こうとするお話。魔女の呪いでカエルにされる、解呪の条件が口づけであるというのは、ファンタジーでは定番ですが、この話ではカエルはカエルでもヤドクガエル(その中でも致死性の猛毒を持つ種)キスなんかしたら死にます。

4話目の「飲酒番長」は、流れ星にしたお願いが叶う話ですが、お願いの内容がよりにもよって「友達の唾液がお酒になりますように」というもの。そんなことを祈った登場人物に突っ込みを入れるべきか、そんなお願いを思いついた道満晴明先生に突っ込むべきか迷うところです。

他にも話のストーリー自体は最初から最後まで普通の流れでも、雑学だったり、変なアイテムだったり、やたら秀逸なセリフ回しだったり、摩訶不思議なキーワードだったりが原因で、どこか奇妙で不思議な仕上がりになっています。

特に面白く感じたのが上にも書いた「飲酒番長」と、願いをかなえる悪魔が出てくる「契約」という話。

 

飲酒番長

「友達の唾液がお酒になりますように」という願い事の内容に加えて、その直後のやり取りや、唾液がお酒になったせいで理不尽な二日酔いに苦しむ女の子、お酒が大吟醸だったり、味見のために何度も唇を奪われたり、登場人物の問題発言に「*」で注記する形で突っ込みが入っていたりと、ことごとく笑いのツボを突かれました。

最後に無理やりきれいにまとめるのかと思った矢先に、次の喜劇を暗示する終わり方。この翌日に何があったのかすごく気になります。

 

契約

 3人の男が悪魔を呼び出して、願いをかなえてもらおうとするところから始まりますが、願い事の制限が時代のニーズに合わせたポイント制。かなえる内容によって必要なポイントが変わり100ポイント以内なら自由にお願いできるというもの。

男たちの背景とそれぞれの性格が短い間にテキパキと明かされて、ポイントの説明も含めて前半の4ページだけで舞台装置の説明完了。ポイント制限のおかげで九死に一生を得た人たちのリアクションというギャグのおまけまでつけて、きれいにまとまっています。

最後に残った1ポイントを使って、何ができるかという後半が、この話の本題なわけですが、最後まで隙がない。

これまでの短編では、突拍子もないコミカルな話も、余韻の残るシリアスな話も、良くも悪くもファジーな部分が多い印象でした。

この話は舞台装置の説明、ポイントでできる事、悪魔の望んでいたことから、最後の1コマまできっちりしていて、昔よく読んでいた星新一先生(小説家、ショートショートジャンルの第一人者)を思い出しました。

 

 

話と話にはつながっているものもあり、現代では天使っぽい姿で活動している神様の使いの少年が、過去の時代の話では狐面に蓑の恰好をしていたり、同じく過去の時代の話で親を失った異形の子供が、現代では立派に成長していたりと、話の本題とは別に楽しめる仕掛けもあり、そこがまた面白かったです。