コミックコーナーのモニュメント

コミックコーナーのモニュメントは、漫画を読むことが好きな石文が、読んだ漫画の感想を書いたり、紹介をしたりするブログです。

セントールの悩み1巻 感想【ネタバレを含みます】

 

セントールの悩み(1)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

セントールの悩み(1)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

  ケンタウロスのような「人馬」形態の女子高生、君原姫乃。その友人の獄楽希は「竜人」形態で蝙蝠のような皮膜の翼があり、同じく友人の名楽羌子は「角人」形態で頭に角が生えている。クラスの委員長は天使のような翼と輪を持つ「翼人」形態。
 
そんな様々な形態の人間が存在することが当たり前の世界の平凡な日常を描く、セントールの悩み1巻の感想です。

 

ケンタウロス女子高生の平凡な日常のリアリティー

この物語は、人馬形態の女子高生の平凡な日常を中心に進むわけですが、この平凡というところが面白い。

ケンタウロスのような人馬と、悪魔のような特徴を持つ竜人、頭に角の生えている角人がそろって制服姿で学園生活をしていても、これも単なる日常風景であるわけで、ありふれた光景でしかないわけです。

しかし、読者が「この世界」の外から見た場合、ケンタウロスや、悪魔や、頭に角が生えている獣耳の人が現代風の日常生活をしているというのは、なかなかインパクトがある光景です。まずこの「絵」の時点で面白い。

そして、物語を読み進めていくうちに、少しずつ各形態の体の構造や日常生活に関するエピソード、現実の現代社会との違いや、なぜそうなったのかという歴史などの世界観についての情報が少しずつ出てくるわけです。こちらは「話」としての面白さ。

登場人物の楽しい掛け合いは据え置きです。

この「絵」と「話」と楽しい掛け合いが全てそろってこそ、ここまで面白い漫画になるのだと思います。

そして、重要なのは、その「絵」と「話」と掛け合いの中にリアリティーがあることです。

例えば、1話の演劇エピソードでは、人馬女子の体重に関するエピソードがあります。

学校行事の出し物で、お姫様役をやることになった君原姫乃が、「牢獄塔」の舞台装置の上に乗ったところ、ミシッと嫌な音が。

不安に思い相談するものの、クラス内の猫見豊(巨漢生徒・人馬ではない)を上にのせて実験したと説明されます。「なんぼなんでも猫見より重くねえだろ」と言われてしまい、それ以上何も言えなくなってしまいます。

この時の姫乃の反応を見るに、猫見君よりも体重はありそうです。その反応から姫乃の体重に気付くも、デリカシーを働かせて深くは触れず、補強するようにとだけ指示を出す委員長。姫乃の反応には気付かない舞台装置担当の生徒、藤本公作。委員長の後ろでもじもじするも体重については言い出せない姫乃。それぞれの人物の性格が出ていて面白い。

しかし、この場面で注目すべきところはこれだけではないと思うのです。

藤本君は、「人馬女子の体重について知らなかった」というところがすごくリアルだと思うのです。

藤本君が、姫乃がもじもじしていることに気付かなかったのは、観察力やデリカシーの問題ですが、その前に「人馬女子の体重について知らなかった」という前提があります。

「この世界」では人馬という形態の人類がいることは当たり前です。その「この世界」で、人馬以外の形態の人間が、人馬の体重について知っていることは当たり前でしょうか。

当たり前ではないと思うのです。

現実においても男性は知っていて当たり前だけれど、女性はあまり知らない男性のことや、特定の職種についている人たちや、専門の研究者にとっては常識だけれど、それ以外の人にはほとんど知られていないことなどは意外と多く存在します。

だから現代日本や過去の時代などを舞台にした作品で、意外と知られていないことが盲点になる展開があったとしても、それ以上のことがなければ、ただ「リアルだな」と思うだけです。

しかし、この場面は、人類の形態も、その社会も、その中の日常も現実とは違う、村山慶先生のオリジナルの「この世界」での一幕なわけです。

現実とは違う架空の世界を舞台にした話であるにもかかわらず、その架空の世界ならではの「知ってそうで意外と知られていないこと」がさりげなく、本当にさりげなく出てくるあたりに「リアルだな」では済まない、迫真性を感じました。

 

体の構造、歴史と法律、スポーツルールまで分かりやすく

 2話ではマラソン中の会話から、次々と「この世界」の情報が出てきます。

ダイエットのためランニングをはじめたらしい姫乃の、人馬は太ると体が廻らなくなってお尻も拭けなくなるという発言。

へばった名楽羌子に姫乃が何気なく言った「背負ってってあげようか?」からは、日本と海外での人馬の歴史の違いと、形態差別に関する現代法のエピソードが語られます。

日本では人馬は武士だったが、海外では騎獣がわりの奴隷だった国もあるとのこと。

さらに現代法は海外のものが元になっているから、その辺の差別には特に厳しいということもまとめて語られます。

甲冑姿の凛々しい人馬武士の鎧姿の隣に並ぶのは、フルアーマーの逞しい人馬の騎士ではなく、腕を拘束されて別の形態の人間に跨られる人馬の姿でした。跨っている側の鎧の口の部分から、人馬の鎧の耳の部分へと命令をするための管と思われるものが伸びています。      

はっきりとした図があるおかげで、姫乃の体が廻らなくなる発言も、人馬奴隷の悲惨さもよく伝わります。

 その後も、姫乃の具体的な身体能力や、陸上のトラックは形態ごとに別で、団体競技や格闘技は形態混合であるといった情報が出てきます。

それにも拘らず、説明臭さと言いますか、進行の作為的な部分が気になることもなく読むことができました。

これは姫乃たちの楽しげなやり取りや、走っている場面の視覚的な描写を間に入れるといった間の取り方、話題の転換が自然に見えるように十分に配慮されているからでしょう。おかげで登場人物の楽しくかわいいやり取りを見ることができ、世界観の深みとリアリティーも感じることができました。

 

 

 竜人の獄楽希が、書店でたまたま目についたファッション誌の表紙が姫乃であることに気付いたときの、無言のまま翼がバッと開くリアクションも、実際にありそうだと思ってしまいました。

オリジナルの世界観の細かさも、その世界観をここまでリアルに描写することも、それを楽しく見せてくれるのも、そして、それらが全てそろっているということも、この漫画の凄いところだと思います。