コミックコーナーのモニュメント

「感想【ネタバレを含みます】」カテゴリーの記事はネタバレありの感想です。 「漫画紹介」カテゴリーの記事は、ネタバレなし、もしくはネタバレを最小限にした漫画を紹介する形のレビューとなっています。

セントールの悩み4巻 感想


セントールの悩み(4)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

  

 突然の南極人の転入という姫乃のピンチのままで前巻からの話が続く、セントールの悩み4巻の感想です。

 

南極人のスーちゃんが知的かわいい

 3巻の最後で転校してきた南極人のケツァルコアトル・サスサススールことスーちゃんですが、これがまたかわいい。

 外見的なかわいいではなく、行動や反応がかわいいのです。

 授業開始時の礼のときに、長い首がみゅいんと下りてきて、前の席の羌子がびっくりしたりのも面白かったのですが、姫乃とのやり取りがこれまた面白い。

 授業中に姫乃がちらちらと隣の席のスーちゃんを見ていると、スーちゃんもその視線に気づきます。

 一度視線を外した姫乃が、再びスーちゃんの方をチラ見すると、そこには大きく開いたスーちゃんの口が。迫力満点のスーちゃんの口内に姫乃は失神してしまいます。

 そして、意識を取り戻した矢先、姫乃を心配したスーちゃんの顔のアップに再び失神。このような流れは定番というかある種のお約束ですね。

 そもそも、なぜスーちゃんが姫乃の至近距離で口を大きく開いていたのかというと、本人は笑顔のつもりだったという理由。

 哺乳類人とはまったく違う顔面の構造で、哺乳類人式の笑顔でのコミュニケーションを図ったようですが、大きく口を開いているようにしか見えません。

 昔見たホラー映画のせいで、南極人にトラウマを持っている姫乃には、捕食シーンにしか見えなかったことでしょう。

 姫乃のトラウマの原因の映画に興味を持たれ、一緒に見ることになるわけですが、この映画を見るときのリアクションが実に素晴らしい。

 横に並んで見ている姫乃と反応がシンクロしている上に、怖いシーンで悲鳴を上げる姫乃と抱き合いながら、いかにも「びっくりした!」という顔を見せてくれます。

 映画の南極人に恐怖し、隣にいた南極人に抱き着く姫乃もシュールですが、スーちゃんも負けていません。

 エンディングの後で、空想の怪物を創造する人間の想像力に驚いたかと思えば、自分の方をうかがう姫乃と希の視線の意味を勘違いし、「まさか、この映画は作り事ではなくて、本物だとか!?」というボケをかましてくれます。

 姫乃たち側は、南極人を恐ろしい存在なのではと怖がっていたり、南極人を恐ろしい化け物として表現した映画に対して怒るのではと考えていたりしたわけですが、ことごとく読みを外してきます。そのリアクションもいちいち面白く、かわいいです。

 でも、よく考えてみれば、現実のホラー映画などでも、外見は人間そのものでもその能力や内面、本性が化け物というタイプの怪物はいるわけです。

 南極人からしてみれば、毒牙を持ち、知性ある生き物を丸飲みにして食い殺した挙句、それに化けて潜伏するなんて怪物を自分たちのことだと言われてもぴんとこないのでしょう。

 何にせよ、姫乃たち哺乳類人と違う蛇のような頭部の南極人が、これだけかわいらしい姿を見せてくれることにも驚きです。

 人間とは全く違う外見で、かといって動物的な愛らしさではなく、これだけの可愛らしさが内面からにじみ出るのが面白く、魅力的です。

 知的生命体としてのかわいらしさとでも表現するべきでしょうか。

 この15話以外のエピソードでも、ひざ下までの深さしかない子供用のプールで悲鳴をあげたり、霊魂も超自然現象も信じないといった後で、慌ててみんなの信仰を否定するつもりはないと弁解したり、羌子の南極人に対する鋭い考察に目からうろこが落ちて、「あんぐり」と口を開いたまま固まったりとかわいい姿を見せてくれます。

 20話でのほっかむりファッションも本人が大まじめにやっているのが面白いですし、希に突っ込みを入れられた際に、好奇心に目を輝かせていたのがまたかわいかったです。

 

君原姫乃が本当にお姫様だったというお話

 18話では君原家の実家が登場。電車での移動中に実家の人間関係に悩む姫乃の母親、君原理乃。この作品はこういうところがとことん生々しいです。

 オリジナルの「この世界」独自の問題だけでなく、身近な人間関係の悩みなども描かれてこそ正しく「日常」と言えるのでしょうが、嫁舅問題に続き、長男夫婦との関係にも悩む理乃さんの心労が慮られます。

 駅から出るなりまず、息子にも嫁にも厳しく、孫にだけ甘い姫乃の祖父がお出迎え。姫乃の「ごめんなさーい」が棒読みに聞こえるのは私の気のせいでしょうか。

 そして、予想以上に田舎で、予想外に大きい君原家実家家屋が登場。大きな門に、瓦屋根、敷地を覆う壁といかにも武家屋敷といった印象。廊下や居間もかなり広々としていて、人馬用の家という感じです。

 玄関に入った矢先、お手伝いらしきお菊さんが登場。さらにその口からは「刀自」などという単語が出てきます。

 さらに、年を取ってもはっきり美人だとわかる顔立ちのおばあ様が、着物を着て背筋をピシッと伸ばして登場。ページが進むごとに、住んでいる人も込みでの武家屋敷らしさがどんどん増していきます。

 家族での食事やお墓参りなど、帰省先らしいイベントが続きますが、町に行く前日に洗車をしたり、人馬用の自動床几があったりと、さりげない部分もはっきりと描写されているところも相変わらずのリアリティーです。

 そして、町を見下ろすお城の跡地で語られる驚愕の事実。世が世なら姫乃も紫乃ちゃんも本当にお姫様だったというお話。武家屋敷どころか城主だったのですね。

 しかし、それを隠すのは何故でしょうか。

 子供の理解で変なことを言い出さないか心配だからという可能性も考えましたが、それにしては隠すというのは姫乃だけでなく、保護者たちの共通認識の様子。

 形態平等関連での思想的な理由でもあるのでしょうか。

 紫乃ちゃんのお姫様のイメージが終始西洋風だったのが面白かったのですが、姫乃がイメージを誘導している様にも見えました。特に話の最後、幼稚園でお姫様ごっこが流行りだしたことに先生たちが感心している場面を見ると、姫乃の意図的な偽装工作だったのではと思ってしまいます。

 

 

 登場人物たちの会話を通して、様々な問題や、物事の考え方などについても触れられることが多いこの作品。姫乃たちとは全く別の価値観と思考を持つ南極人のスーちゃんの登場で、そういった会話もますますはかどりそうです。