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ダンジョン飯4巻 感想


ダンジョン飯 4巻 (HARTA COMIX)

 

 冒頭から気になる新情報が目白押しの『ダンジョン飯』4巻。ついにライオス一行の当初の目的だった、ドラゴンの討伐と、ファリンの救出の話になります。

 

熱い熱いレッドドラゴン

 ドラゴンの大きさは、登場するファンタジー作品によっても様々ですが、『ダンジョン飯』のドラゴンもなかなかに大きいです。対峙する場所が古代の城下町であるせいもあって、怪獣に見えました。

 いつもよりもシリアス多めですが、それでもなお、ピンチの場面でも所々でコミカルになります。

 戦いが始まった後にドラゴンの走行速度が自足60キロであるとの蘊蓄をライオスが語り、先に言えと仲間に突っ込まれます。

 他にも、ドラゴンの炎のブレスをアダマントの鍋で防いだところ、鍋だからこそ均一に熱が広がり、熱くなって手放してしまう等、こういう空気はいかにも『ダンジョン飯』といった感じです。

 一番笑ったのはライオスが自分の剣の代わりに、剣型の「動く鎧」を使っていて、これが土壇場で逃げたせいでピンチになったときでしょうか。その場の空気が何とも言えません。

 みんなで逃げているときに、チルチャックがライオスのことを罵倒しますが、「共通語は罵倒の語彙が少なすぎる!」と言うと、読み方もわからない謎のファンタジー言語で罵倒を続けます。

 ドラゴン相手に有効な武器がなく、決め手のない場面でセンシが取り出したのはいつも使っている包丁でした。ここで、センシの包丁が実はミスリル製の包丁だったことが明かされます。

 ファンタジー作品でよく使われる希少金属は、同じ名前でも、作品によって全然扱いが違います。ミスリルも少し珍しい金属程度の扱いであることもありますが、ライオスとチルチャックの反応をみるに、『ダンジョン飯』の世界では物凄い貴重品である様子。

 アダマントの鍋に続き、こんなものを所持しているセンシの正体が気になります。

 ドワーフの王族か大部族の族長の家系、あるいは伝説の英雄の直系の子孫であるとか、何がしかがありそうです。

 そして、チルチャックとセンシが倒れ、この作品ではとても珍しいコミカル抜きのシーンに入ります。

 と、思いきや、覚悟を決めたライオスの発言内容や、それに混乱するマルシルの反応を見ているとコミカルに見えないこともない。これが「シリアスなギャグ」という奴でしょうか。

 計算の上で体を張るライオスがかっこいいです。ここでファリンが対比に出てくるのも最高です。

 極限状態で最後の一歩を踏み出す演出では、考えた上で体を張るか、何も考えないで体が自然に動いた結果か、どちらの場合でもそれの「何」がかっこいいかが重要だと思います。

 自己犠牲的だから、英雄的だから、ただ体を張るからかっこいいというのではなく、何故そういうことをしようと考えたか、あるいはとっさに体が動いたことの背景には何があったかが重要だと思うのです。

 今回の場合ライオスには作戦として十分な勝算があっての行動でした。

 足場にしたアダマントの鍋の強度と、防御魔法を頼りに、爆発魔法でジャンプしてドラゴンにとびかかります。この時点でも十分にいかれた作戦ですが、ドラゴンの急所は顎の付け根で、飛び乗った頭の上からでは狙えません。

 ライオスの策は、そこから片足をドラゴンの口に突っ込み、それに噛みついたドラゴンに自身を支えさせた上で、宙づりになった状態からの一撃でした。

 頭の上に飛び乗った時点で、ドラゴンはライオスを振り落とそうと暴れます。

 ドラゴンの咢に自分から足を突っ込むという狂気の策を、振り落とされる前に、すぐに実行しなければならないという極限の状態。

 その時、ライオスの頭をよぎったのは自分を庇ってドラゴンの咢に消えた妹のファリンのことだったわけです。

 振り落とそうとするドラゴンに建物の壁や屋根に何度も叩きつけられながら、「ファリンの痛みに比べれば」とドラゴンの口に足を突っ込み、その噛みつきに無言の絶叫を上げ、そこから無理やり呼吸を整え、一拍置いておいて、雄たけびと共に渾身の一撃。

 最高です。本当にもう最高です。

 モンスターマニアでモンスターの習性や体の構造を熟知しているから、口に足を突っ込むとどう反応するか確信があった、急所の位置も知っていた。

 仲間とともにここまで来たから、センシの包丁を使ったチルチャックの投擲でドラゴンの左目部分に死角ができ、マルシルの魔法で飛び乗ることができた。

 妹への想いがあったから、極限状態で最後の一手を打つことができた。

 ここまでしっかりと描かれてきた「ライオス」だからこその最高に熱い一撃でした。

 

白骨のファリンと禁忌の古代魔術

 レッドドラゴンを倒して、ファリンを救出するために、まずは解体作業ということになるわけですが、レッドドラゴンの体内の様子、その体内で進める解体作業と本当に細かいところまで丁寧に描かれています。

 胃や腸にもファリンの痕跡はない。レッドドラゴンが別の個体という可能性もない。

 そんな状況で、ライオスは消化しにくいものが燃料として蓄えられる、レッドドラゴンの燃料袋の存在に気が付きますが、中から出てきたのは大量の毛の塊、無数の骨と人間の頭蓋骨。

 遺体の状態が極端に悪く、これ以上動かすのが危険な状況で、マルシルが提案したのは禁忌とされる古代魔術による復活でした。座った目でライオスに決断を迫るマルシルとそれに即答するライオスがとてもいい味を出しています。

 そして、唐突に始まる人骨と魔狼骨の骨格パズル。楽しそうなライオス。本当にこの作品はいいシーンでもシリアスが続きません。

 ファリンの復活シーンも、おぞましい術の過程から、復活直後に血液が気道に詰まって涙目でせき込むファリン、それを介抱しそのまま抱きしめるライオス、鎧の冷たさに反応してしまうファリンと、描写の細かさ、リアルさ、テンポの良さに、程よいしんみり具合と大満足です。

 

ファリンとレッドドラゴン実食

 さて、今までほぼ回想シーンでしか出てこなかったファリンが復活しましたが、マルシルとのお風呂シーンでの魔力譲渡、レッドドラゴンの燃料袋に誘爆した際のとっさの防御魔法と、明らかに普通じゃありません。仲間たちの反応から見ても以前よりスペックが上がっている様子。

 ファンタジー的なお約束要素としては「竜の血肉」も考えられますが、今までの情報だとレッドドラゴンは強力ではあるものの、特別な魔物でもなさそうです。

 だとすると考えられるのは、マルシルの使った蘇生方法でしょうか。禁忌の術を研究することにやましいことはないというマルシルが、蘇生方法に関しては証拠隠滅や口外無用をほのめかしており、とても怪しげです。

 さて、何はともあれ、レッドドラゴン実食。

 引火してしまったせいで、燃え盛るレッドドラゴンの体内を竈代わりにして、ピザパンを製作。このアイディアも秀逸ですね。引火から危機回避、その後の有効活用。ストーリーに無駄がなく、リアルで、かつユニーク。

 レッドドラゴンの肉はローストレッドドラゴンとドラゴンテールスープになりました。ファリンの食べっぷりにはセンシも笑顔です。

 ライオスとマルシルが気にしていましたが、「ファリンを食べた」レッドドラゴンの肉ですね。ライオスはともかく、マルシルも最終的には食べて、じっくりと味わい、楽しそうに感想を言っているあたり、すっかりダンジョン飯に染まってしまった気がします。

 そんなファリン本人ですが、とても可愛らしいです。非常に好奇心旺盛で、ダンジョン飯にも抵抗がない模様。ライオスの「魔物を食べながらここまで来た」発言にも目をキラキラさせて、顔を真っ赤にして質問します。

 目をキラキラさせたファリンと、ファリンのそんな反応に涙目のマルシルが面白いです。

 この辺はいかにもライオスの妹といった感じですが、ライオスと違って可愛げがあるのは、性別や顔立ちの違いに加えて、性格的なものが大きいと思います。

 自分の感情や興味の対象に素直なのはライオスと一緒なのですが、もう少しおっとりしているというか、周りが見えているというか。自然体で、悪気が無くて、実害もないからだと思います。

 実害のあるボケと、放っておいても無害なボケとの差とでも言いましょうか。放っておくと実害のあるボケには突っ込み役もハラハラしますからね。価値観が独特なことや好奇心が旺盛なことは共通としても、やはり周りが見えているかどうかが大きい気がします。

 

 

 ファリンを無事救出して、めでたしめでたしと思いきや、わずかに残ったマルシルの魔法陣を調べる人影が。生ける絵画の回でライオスを焼き殺そうとしたエルフですね。いつもより黒いページ増量の「To Be Continued…」も不吉です。