コミックコーナーのモニュメント

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セントールの悩み12巻 感想【ネタバレを含みます】

 

セントールの悩み(12)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

セントールの悩み(12)【特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 


 綾香ちゃんと鴉羽さんが、正式にオカルト科学部に入部。今回はオカルト関連をいろいろな視点から描いたエピソードが目を引きました。セントールの悩み
12巻の感想です。

 

鴉羽さんのクラスの出し物は「蜃気楼」

 文化祭の出し物の話にちらりと出てきた「蜃気楼」という劇が気になります。

「この世界」の日本において、羌子が知っていて、姫乃や綾香ちゃんが知らないくらいの知名度の様ですが、立てこもりの強盗犯が民族問題を言い立てるのを、文化人たちが「君のことはすべてわかると」と説得しようとする劇とのこと。

知識人を自称する人たちの知的不誠実さを皮肉った劇とのことです。

「蜃気楼」というタイトルは、垂れ流される不誠実な言葉によって作られる、実体のない虚像という意味で、蜃気楼なのでしょうか。

流石に「蜃気楼」の物語を終始一貫して見ることのできる機会はなさそうですが、会話の合間に、こんなにも面白そうで痛烈なネタを挟んで来るとは。

これだけで1話作れそうです。というよりも、面白そうだからこそ、じっくり1話分見ることができなかったのが残念です。

 

日本ならではの人魚部隊

85話では日本の船への侵入を試みた両生類人武装組織を人魚の隊員が迎撃。

人魚は両生類人と同じ水陸両用と言っても、水中の比重が大きいので、その分の優位があるのは想像に難くないですが、それにしても、水中銃を何度も回避したり、気絶させた両生類人を3人まとめて牽引したりと、人魚形態の身体能力が凄まじいです。

気絶させた両生類人の口の中に入れていた小さなボンベは、牽引していく間の呼吸を持たせるためのものでしょうか。※おまけページの情報からすると、両生類人はカエルから進化した人類というわけではない様です。

この巻のおまけページにもちらりと書いてありましたが、現在人魚形態が存在しているのは日本だけということなので、人魚部隊は日本にしか存在しないことになります。

人魚部隊の規模はわかりませんが、「この世界」でも日本は当然島国なので、四方を海に囲われた国に、固有かつ特化した海中戦闘のプロフェッショナル集団がいることになります。

実際のところはわかりませんが、「この世界」の日本の領海・沿岸警備事情がどうなっているのかなど、いろいろな妄想が捗りました。

 

あなたはオカルトを信じるor信じない?

 12巻はオカルト関係のエピソードが充実。様々な視点から焦点を当てているのが興味深いです。

 83話では心霊現象だと思われていた事件の裏側が、オカルト科学部メンバーの推理によってすっきりと説明。怪異だと思われていたものの正体がすっきりと証明されるお話。

 84話では羌子が幽霊を信じない理由が語られた後、「天国はないという証明」の話になります。宗教云々ではなく、現実に則した論理的な思考で「天国」というものが如何に存在しえないかが語られていきます。

ところどころで変な方向に脱線しながらも、その脱線がむしろ痒い所に手が届く形になっているのが、この漫画の掛け合いの楽しいところです。

 86話では文化祭の出し物のネタ探しに、御霊神社に押し掛けたオカルト科学部の面々が、本物の「神」と「呪い」に接近。84話での羌子の話とは食い違わない形で、神や呪いの実在について語られます。

 世界観の描き方が、変則的で、かつ多様性にあふれているのが本当に素敵です。

 オカルトを論理的に否定する流れのエピソードから、それまでの論理の流れからは矛盾しない形で、オカルトが存在するというエピソードにつながるのがすごく快感でした。

 84話と86話を比較すると、羌子の「幽霊を信じない」理屈と、神様の語る神や呪いの世界は実在するという話が、それぞれしっかり対応していました。幽霊と神様では少し違う気もしますが、それはそれです。

 羌子の「きちんと存在が証明されたことは一度もないし、そもそも目撃談ですら、見る側の持つ霊魂の概念に左右される」という主張には、「神も呪いも、同じ信仰、同じ社会通念、同じ社会幻想の中でしか存在できない」という語りが答えになっています。同じイメージの持ち主にしか「その世界」は見えないし、万人に証明することは不可能ということですね。

「考える 思うっていうのもタダじゃなくて結構カロリー使うからね、実態がないと栄養も取れない」という主張には、語りではなく、神様が「呪い」を捕食するシーンが答えになっています。実態を伴わない世界にも食物連鎖のようなものがあるようです。

 目の前で語っていても、食事をしていても、全く気付かれない神様が、物質の世界とオカルトの世界の隔たりを感じさせます。

 漠然とオカルトの世界があるという前提だけで話を進めるわけでも、闇雲に否定するのでもなく、肯定する視点のエピソードも、否定的な視点のエピソードも、どのような論理をたどっているのか、しっかりわかるように描かれているので、ストーリーを楽しみながら論理の面白さもじっくり味わうことが出来ました。

 

アイドルグループ、南極少女

87話では、アイドルを目指していたニルちゃんが、ついにステージデビュー。

 南極人が物珍しいからか、大学の学祭とは思えない人の入りです。

楽屋を訪ねたスーちゃんとスタッフの「えーと、関係者です」「分かります」のやり取りに笑いました。日本では南極人自体珍しいですからね。文字通りの顔パスです。

今回のニルちゃんのハグは、鳩尾へ勢いよく自分の肩をぶつけるというもの。

ハグというよりもタックルですね。ニルちゃんが飛びついたところでスーちゃんの体が「く」の字に折れています。首の長い南極人ならではの「く」の字です。

悶絶するスーちゃんを尻目に笑顔で挨拶する姫乃もひどい。突っ込んだり、心配したりする気が起きないほど繰り返された光景ということなのでしょうか。

ニルちゃんと同じアイドルグループのメンバーのぼやきからは、彼女たちがニルちゃんの「オマケ」であるという自嘲や悩みと共に、芸能人としてのニルちゃんの強みや、普段の様子も語られました。

ニルちゃんの力で高みに行くのを「それは自分の実力じゃない」と不安に思う子と、「偶然で手にしたものでもそれを活かすのは能力」とチャンスとして捉えている子のやり取りは、どちらの考えも納得のいくものであると同時に、人間味もあり、しんみりとした気持ちになりました。


南極人代表のスーちゃんと、御霊神社の神様の第一次接触はニアミス気味に終わりましたが、あの場面で、スーちゃんだけが神様の姿を見ることが出来ていたのが気になるところ。南極人関係もオカルト関係も今後が楽しみです。

11人の人間の世界の見え方・捕らえ方の違いをしっかり描いた上で、「この世界」、延いては私たちの世界のもやもやした部分もしっかりと投影・演出するこの漫画は、相変わらず読み応えがあります。