コミックコーナーのモニュメント

コミックコーナーのモニュメントは、漫画を読むことが好きな石文が、読んだ漫画の感想を書いたり、紹介をしたりするブログです。

セントールの悩み13巻 感想【ネタバレを含みます】

 

 どこまでも広がっていく世界観。平行する物語は増えていく一方。小出しされる情報がもどかしい。でも面白いからやめられない。そんなセントールの悩み13巻の感想です。

朱池さんちの事情、犬養さんの気持ち

91話ではオカルト科学部の公認同性カップル、朱池さんと犬養さんにスポットライトが当たりました。

2人が起きたところ、いわゆる「朝チュン」の状況から話が始まりますが、2人とも服を着ていないにもかかわらず、頭に何かをつけています。

角がすっぽり入るクッション状のものですが、角が生えている人には必須の品ですね。独り寝の場合でもこれがないと、枕とか布団とか大変なことになりそうです。

朱池さんの家は「朱池宅前東」などというバス停がある程の名家で、以前の羌子の発言からも資産家であることが窺えました。それが何やら物騒な様子。次期当主の朱池さんは野心家の伯父に狙われているようです。

水面下で事態が動く中、オカルト科学部はいつも通り活動中。鴉羽さんの突然の「センパイはどうしてレズになったんですか」発言でみんなの視線が犬養さんへ。

犬養さんは、いつも一歩離れたところでやさし気に笑っている印象の人だったので、会話の中心になるのも、ここまで取り乱す場面も初めてで新鮮です。

犬養さんの恋愛観自体も興味深い内容でしたが、その語りの中で出てきた姫乃や希の化け物ぶりの方に目が行ってしまいました。

体力測定の垂直跳びで、肩から水平に伸ばした手を、計測用の板の一番上についています。

 話の流れとしては本来重要ではない部分なのですが、思わず突っ込まずにはいられませんでした。

 そして、夜道で銃撃を受けるも、とっさに対応できるオカルト科学部一行。

「この世界」の日本は、私たちの日本よりも物騒なことや、メンバーの遍歴を考えると、この対応力にも納得できてしまうのがなんとももやもやします。

対応できるわけがないと思っているからもやもやするのではなく、対応できることに納得してしまうことにもやもやするのです。平凡な高校生ってなんでしたっけ。

 結局、公安の護衛のついているスーちゃんがいる状況で、自分を襲わせることが朱池さんの計画だったわけですが、友達を平然とお家騒動に巻き込むあたり、この人も普通の感性じゃありません。

朱池さんのお爺さんの「必要とあればなんでも出来る子」という評価も納得です。普段の明るく軟派な人物像とのギャップが凄い。

 犬養さんは相手が男か女かよりも、「ある人にとって私が一番で特別っていうのが嬉しいんだよ」と語っていましたが、朱池さんの方はどのように犬養さんのことが好きになったのか、朱池さんの普段表に出さない黒い部分も込みで、2人の馴初めが語られないか、楽しみにしています。

 

御霊さんの想いが怖い

 姫乃たちのクラスの委員長、御霊さんちの家庭の事情については、これまでの物語の中でもよく登場してきました。私も感想で御霊さんが重いだのと書いたことがありましたが、重いどころか怖いというのが13巻での率直な感想です。

 妹のちーちゃんの授業参観の前日、絵の仕事の締め切りと重なり、フラフラになりながら書き上げようとする御霊父。御霊さんは、自分が起こすから仮眠を取るようにと父親を眠らせ、その間に絵を完成させてしまいます。

朝起きて、絵が完成していることに驚く御霊父の御霊さんを見る顔が凄いことになっています。

まさに「驚愕」という表情。自分の娘のしでかした所業と、完成した絵の出来、その両方に驚いているように感じました。

話は授業参観の後でということで、ちーちゃんが読み上げる母親代わりの御霊さんへの感謝の作文や、それに涙する御霊さんと温かい場面にはいりますが、それもつかの間。

小さな子供たちの目に触れない場所で、絵のことを切り出す御霊父。御霊さんには自分よりも才能があるかもしれない。それでも自分は芸術家の端くれだから、勝手に絵に手を入れられて黙っているわけにはいかないと辛そうに話します。

そんな父親へ御霊さんが放った言葉は「じゃあ、私を殴って」でした。

目の下に隈を作った父親の目をまっすぐ見据えて言う御霊さん。このとき着けているヘアピンが、蛇のデザインなのも象徴的です。

それは出来ないと言う父親を御霊さんはさらに言葉を重ねて追い詰めます。

父親の胸元に寄りかかり、父親の顔を見上げながら、笑顔で言葉を続ける御霊さんが怖いです。

後日の御牧さんとのやり取りで、これが御霊さんなりの父親への甘え方だったことがわかりましたが、御霊さんの印象がだいぶ変わりました。

 

『催眠術入門』に全部持って行かれた

 96話は、謎の空間を歩く姫乃とスーちゃんから始まりました。

南極人であるスーちゃんの立場として、姫乃に見せたり聞かせたりしたらまずそうなものがゴロゴロ。読者の妄想をくすぐる情報がゴロゴロ。

姫乃も以前の異世界転移の際に使っていた鉄の弓を手にしていて、雰囲気もそのとき寄りのシリアスモード。状況全部が異常です。

と思ったら、スーちゃんに起こされて、見慣れぬ駅で目を覚ます姫乃。いわゆる「夢オチ」です。

しかしながら、スーちゃんの鞄から覗く『催眠術入門』がシュール。

今までの出来事が夢ではなかった可能性を示唆しているわけですが、重要な情報の隠蔽が「本を読みながら、初めての催眠術にチャレンジしました」みたいな具合でいいのでしょうか。

もっとも、スーちゃんが重要な情報をべらべらと話していたことや、姫乃が周りの異常な状況にそれほど疑問を持っていなかった様子からして、謎の空間にいた時点で既に催眠術がかかっていた可能性が高いです。

だとすると、姫乃に思いのほか催眠術が良く聞いたので、情報隠蔽が必要な自分の仕事の手伝いに連れて行ったのでしょうか。確かに、普段の姫乃はいろいろと催眠術がかかりやすそうな印象があります。

あるいは、駅のベンチでウトウトしていた姫乃に、スーちゃんが知的好奇心を発揮して、催眠術を掛けて変な夢を見せたのでしょうか。可能性としてはなくはありません。

駅で寝ている姫乃に『催眠術入門』片手ににじり寄るスーちゃん。なかなかに笑いを誘う構図です。

何処まで行っても『催眠術入門』がブラックかつシュール。いろいろ気になる情報があったのに、全部持っていかれました。

 

その名は宇宙菌類

 姫乃たちの町やアメリカの片田舎、異世界転移がらみでも登場していたエイリアンについて、ついに「宇宙菌類」という呼称が出てきました。

 13巻分だけでも、ちびっ子たちを不思議な世界に迷い込ませたり、南極人の基地を襲撃したり、攫った人馬形態の人間といろいろな生き物を戦わせていたり、帰宅途中の綾香ちゃんと鴉羽さんを襲撃したりと、登場頻度も増えてきましたが、肝心な情報はほとんど不明。どういう目的で行動しているかも謎です。

 以前、この宇宙菌類のせいで家族を失い、南極人に保護されたジョーンジィ少年も再登場しましたが、一緒にいる哺乳類人たちがものすごく意味深です。

着ている軍服はこの世界の第二次大戦中のドイツの物に似ていて、最年長の老人の形態が、その人たちの指導者のものと一致。この人たちも南極人のお世話になっているということでしょうか。

この漫画は、とても広く深く作り込んだ世界観のあちらこちらを、少しずつ掘り下げる形で物語を進めるので、仕方がないと言えば仕方がないのですが、思わせぶりで、かつ解釈に悩む場面が重なると、すっきりとした説明がほしくなります。

 

 

 他にも、両生類人の紛争の話や、末ちゃんの保育園、希と羌子の友情の始まり、章のイメチェン、コマの背景で放送しているだけでやたらと存在感のあるプリティホーンなど、今回はいつにもまして盛沢山でした。

 1つの話の中で、本筋以外にも進行している話があったり、ちょっとした会話の中に面白い新情報があったりと、細かいところまで楽しめました。