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セントールの悩み16巻 感想【ネタバレを含みます】

 

 

 

両生類人たちの戦いも終結し、今回は紛争の後のエピソードも描かれました。セントールの悩み16巻の感想です。

 

おまけページ:「四肢人類の世界」

今回のおまけページは「この世界」のベストセラー小説、「四肢人類の世界」についてでした。この小説は、これまでの話や、おまけページの中に、度々登場していました。

人馬や人魚、翼人等、様々な形態の人類がいることが当たり前の「この世界」の視点で、我々のような現実の人間、つまるところ「四肢人類」がいる世界が、架空の世界として描かれているあべこべな構図が面白いです。

2巻で話に上がった際も、「せいぜい髪や肌の色が違う程度の違いしかない四肢人類の間には深刻な争いや差別は発生しないでしょう」や、「ありえたかもしれない空想の楽園」と、現実の我々の世界に対して皮肉が効いていました。

単に我々の世界に嫌味を言っているわけではなく、「この世界」の歴史が、形態差別の歴史であったからこそ、形態差のない「四肢人類」の世界は平和だろうという考えが生まれたという背景があり、奥深いです。

更には、今回のおまけページで、この作品が書かれた時代背景やら、世界的ベストセラーになるまで普及した理由やら、作品に関する考察やらが、いろいろな切り口で語られました。

 この漫画の世界観の作り込みの細かさについて触れるのは、本当に今更なのですが、毎度毎度驚くばかりです。

 

日本人魚を取り巻く現実

 日本政府から両生類人武装勢力に派遣されていた人魚の軍人、美浦さん。自治政府に残ってほしいと引き留められた美浦さんの口から語られたのは、日本人魚を取り巻く現状と、美浦さんが軍人として戦う理由でした。

 実質1ページの間に、人魚関係の新情報がぎっしり。

 世界的に人魚形態が現存しているのは日本だけという話でしたが、実は日本でも人魚は全滅寸前。その事実と、日本の人魚が全滅寸前まで追いやられた経緯があまりに生々しくて驚きました。

 私たちの世界でも起きていたことに、「この世界」ならではの人魚形態の存在が加味され、より一層惨い結果になっていました。

 「守ろう自然!殺そう環境破壊者!」というのは109話で人魚形態居住区域の外壁に掲げられていた標語です。前にこの標語を読んだときは、「相変わらず過激な世界観だな」としか思いませんでしたが、納得の歴史的背景があったことに驚きました。

 

戦火の後の子供たち

125話は、両生類人自治区に派遣された新人教師のお話でした。

いくら紛争が終結しても、11人の人間の考え方は簡単に変わるわけもなく、この人馬の先生も、出発前に友人と飲みながら、「でも一応カエルも人間になったわけで、義務教育を受ける権利と義務があるみたいな」などと言っていました。積極的な排斥はせずとも、当たり前の様に差別感情を抱いています。

「両生類人のことを誤解していた先生が、実際の両生類人の子供たちと接することで、考え方が変わっていくお話」という風にまとめると、和やかな物語のようですが、この先生の前に突き付けられた現実は、そんな生易しいものではありませんでした。

教室で見たのは「悪い哺乳類人」によって、4本全ての腕を切り落とされたクァルルと、そんなクァルルの「手」の代わりをする兄弟でした。

子供たちが何でもないことのように、兄弟みんなで一生クァルルの「手」の代わりをすると言っていることがまた、先生の心を叩きのめします。

この先生ですが、ついこの間まで首都暮らしで、軍人でもない若い女性であり、さらには両生類人と現地の哺乳類人は最近まで紛争中だったということを考えると、両生類人と話すのは今回が初めてだったと考えられます。

ましてや、両生類人の自治区に赴任する心構えはしていても、こんなものを見せられる覚悟は全くしていなかったはずです。

重い足取りで宿舎に戻り、一旦ベッドに腰かけたものの、すぐに立ち上がり、ビールに逃げようとして、結局捨てて、最後は宗教シンボルらしきデザインの御守りを握りしめ「ああ、神様」とへたり込む先生。

11つの落ち着きのない行動からは動揺が伝わり、自分が縋ろうとしている神様と、両生類人たちの神様が違うことに気付きながらも、それでも「ああ、神様」と言わずにはいられなかった先生の様子に、重々しいリアリティーがありました。

 

「いい女はレズなの」

上のタイトルは、126話での鴉羽さんのセリフですが、この前に「私はイイ女だもの」という発言があり、デートに誘った芥子原君は面食らっていました。

鴉羽さんの性的指向については、読者にとっては今更な気もしますが、何気ない会話の中で、意中の相手にいきなりこんなカミングアウトをされたら普通は驚くと思います。

さらに鴉羽さんが、「つまり男の側にも立てるってことね」と続けたことで、芥子原君は言葉の綾だと思ったようです。

生徒会でいろいろ見ている芥子原君の場合は、普段からある程度察しがついていてもよさそうな気もしますが、うすうすは感じながらも、望みを捨てきれなかったというのも考えられます。

上記のカミングアウトの件以外でも、鴉羽さんは芥子原君相手に、ある程度気を許して話していますが、本人の申告やこれまでの様子を見ていると、鴉羽さんは両性愛(バイセクシャル)ではなく、同性愛者(レズビアン)

芥子原君に望みがあるのかはわかりませんが、この2人の関係がどのように落ち着くのかには興味があります。

 

末ちゃんと神様

127話では、高校生兼主婦兼巫女の御霊さんの多忙な一日が描かれていました。

その中に、お供えに文句を言う御祭神と、それに全く気が付かない御霊さんという一幕がありました。御霊さんと一緒にいた末ちゃんには御祭神の姿が見えています。

末ちゃんは今までも、この神様とオセロで遊んだりしていたわけですが、自分が当たり前に見える相手が、周りの人には見えないことをどう思っているのかが気になります。

 

 

 戦争関係のエピソードはやはり重いです。

 南米の国タワンティンスーユや、お洒落をした希の話、種族・形態混合ビーチバレーなど、今回も盛りだくさんでした。