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魔女の下僕と魔王のツノ7巻 感想


魔女の下僕と魔王のツノ 7巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 

 狩猟民族女子・レイのアルセニオへの告白から一夜明け、照れながらも新たな関係を築こうとする2人。男女とは何か、心に性別はあるのか悩むレイに呼応するように面白おかしい事件が発生。

 魔王城攻略、アルセニオと故郷の話にも大きな動きがありました。魔女の下僕と魔王のツノ7巻の感想です。

 

アルセニオ→アルセニョ→ニョニョ

 レイからアルセニオへの告白の翌日、自分の中の男の部分も好きになってもらおうと新たに決意表明するレイ。

 「最強のイケメン」の座を狙ってロイドに襲撃をかける等、いきなり迷走していますが、そんな中で新たな悩みの種が生まれます。

 自分の男の部分も好きになれと言っておいて、自分はアルセニオが女でも好きになれるのかという疑問にぶつかるレイですが、そんなお悩みの答えはすぐに出ました。

 サムをちゃかしたばかりに、八つ当たりの魔法でアルセニオが女体化してしまいました。

 主人公サイドの男性陣(?)のほとんどを女体化させるとはもち先生恐るべし。

 女体化したアルセニオの呼び名はとりあえずニョニョに決定。ヒュペルボレア出身者はみんなアルセニオの名前を「アルセニョ」と呼んでいましたが、発音のおかしいところからネーミングしたので、名前からアルセニオの成分が完全に消えてしまいました。ニョニョをじっくりと観察したレイの無言のサムズアップも含めて、笑わせていただきました。

 魔法を解除するために、恥じらいながらもレイにキスをねだるニョニョ。かわいいのですが、この場面でロイドが止めに入らないのが少しだけ気になりました。エリックとアルセニオのキスの時は阻止したのに今回は特に反応なし。ロイドは肉体の性別を基準に見ている節があるので女同士はOKということでしょうか。

 ニョニョが風呂場で倒れた時、ロイドだけ締め出された場面も気になりました。こちらは疑問というよりも、その気になる部分、もやもやの部分を考えるのが楽しいという意味ですが、元男率が高い中、ロイドだけ締め出されていたのが面白かったです。

 何処から何処までを同性・異性と定義するべきか、現状の体か、心の性別(性自認)か、本人の申告か。この辺りが混乱して、人間関係や当人たちのアイデンティティーが混乱するのは、TS(性転換)要素の面白い部分の1つだと思います。

 

アルセニオとサウロ

 イスパニア軍による大規模な魔王城攻撃が行われる中、魔王のツノ確保のため魔王の保護に動き出す一行。

 人と魔物の死体がどんどん積みあがっていくような戦場で、アルセニオはかっての友人であるサウロと再会します。

 トノコ信教の教義で、人間だったアルセニオの体は魔物に乗っ取られていると信じ込み、かつての友のようにふるまうアルセニオに怒りの刃を向けるサウロ。

 アルセニオのように振る舞っているのではなく、アルセニオ本人であるわけですが、トノコ信教の教義では「悪魔は人間の体に残る記憶を利用し、本人のように振る舞う」という風に教えられています。

 一方、アルセニオの方はサウロの言葉に驚きます。自分が悪魔の誘惑に負けて魔物になったと軽蔑されていると思っていたら、友の仇と思われていて「人間のアルセニオ」はいまだにサウロに友達だと思われていたという事実。

 そのことに笑みを浮かべるも、魔女に仕える魔物の自分はイスパニアの騎士の敵でいいと割り切ってしまうアルセニオの決断が切ないです。

 アルセニオ自身がトノコ信教の教えの下で育っていて、追い立てられた経験もあり、魔物と魔女がどのように思われているかを嫌というほど知っているからこその決断だということがまた重いです。

 と同時に、アルセニオの心が魔女ビビアンとベティによって既に救われていたからこそ、笑顔で別れを決断できたという側面もあります。

 戦場で、呆れながら、涙を流しながら、笑いながら、自分を殺そうとする友との別れを決断するアルセニオの表情は味わいの深いものがあります。

 

レイとサウロ

 アルセニオへ憎悪の目を向け執拗に攻撃するサウロたちに負けじと、戦場でアルセニオへの好意を叫ぶレイですが、戦闘ではサウロの方が強く、レイは負けてしまいます。

 しかし、戦場に取り残されたアルセニオを助けに行った二戦目で、レイの怒りが爆発します。

 この時のサウロは、魔王もろともアルセニオを消し飛ばそうと、大規模な炎魔法を放った直後。

 炎魔法を放った時に熱せられていた自分の剣が、レイの不意打ち気味の氷魔法で急速に冷やされて、熱疲労で脆くなった剣にレイの攻撃が決まり、壊れてしまいます。

 サウロの剣は魔法を使うための「導具」を兼ねたもののようなので、この時点で剣術も魔法も使用不能

 言ってみれば、戦闘後の気が弛んだところに、超特大のラッキーパンチが当たったようなものですが、アルセニオを助けるために格上の相手に突撃し、怒りのままに押し切るレイが熱いです。

 自分を何故殺さないのかと問うサウロに、自分の怒りの強さを念押しした上で「アルセニョが悲しむから」と答えるレイ。この時の2人の表情もいい味が出ていました。

 

サウロとニョニョ

 イスパニア軍は目的であった魔王討伐を果たしたものの、レイに刺された傷の治りが悪く、熱にうなされるサウロ。

 朦朧とする意識の中でアルセニオの幻に手を伸ばした彼が掴んだのは、自分のことを治療する、どこか友人の面影のある、しかし見知らぬ少女の腕でした。

 はい。ニョニョです。

 ここで7巻は終わりなのですが、物凄く気になる最後でした。

 おまけにカバーの作者コメントの欄には「ついにヒロインが揃いました。」と書かれていて、吹き出しつつも、ワクワクが止まりません。

 さらには、表紙裏のおまけページにエリックが普段使っている「花園の雫」と、アルセニオがニョニョになる時の「冥王の毒針」の2つの女性化の魔法がそれぞれの違いを比較できるように掲載されていました。これも何かの伏線に思えます。

 

 

 アルセニオとサウロの関係にどのような決着がつくのかには、とても興味があります。

 物凄く気になる終わり方をしましたが、シリアス要素が多かった今回の魔王城でも容赦なくギャグを投入していたもち先生なので、この後の展開も盛大にやらかしてくれることを期待しています。