コミックコーナーのモニュメント

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虚構推理8巻 感想【ネタバレを含みます】

 

虚構推理(8) (講談社コミックス月刊マガジン)

虚構推理(8) (講談社コミックス月刊マガジン)

 

 とある海辺の町に現れる奇怪な人形。現地の怪異たちからの相談で解決に乗り出す、琴子と九郎。虚構推理8巻の感想です。

 

多恵ばあさんとネコ

 今回は、琴子と九郎が事件に介入する前に、現地の人間・多恵ばあさんと、そのお家に居候している化け猫のコンビが事件のあらましを目撃します。

 80歳過ぎとは思えないくらい元気で、貫録もあるおばあさんと、酒付きで何処かとぼけた化け猫のコンビがいい味を出しています。

 化け猫の正体が露呈した経緯が面白く、それをごまかし無理やり美談にしようとしながらも、次のコマにはもう化けの皮が剥がれるという、憎めない性格のこのにゃんこがかわいいです。

短い脚でクッションをふみふみする等、可愛いアクションでいろいろと誤魔化そうとしますが、「酒好き」という弱点を多恵さんに知られているため、隠し事をしようにもあっさり口を割らされます。ちょろかわいいです。

にゃんこの案内で化け物の集会に突入し、さらに木彫りの人形がひとりでに歩くのを目撃する多恵さん。「この世は何処まで計り知れなくできてるんだい」というセリフは人形の不気味さも相まって緊迫感が良く伝わりますが、それ以上に、自分の人生を何十年も生きた多恵さんの世界が根底から覆されて驚く感じが好きです。まだ人生経験の浅い子供や若者ではこの情感は出せません。

事件解決後のエピローグの部分にも、しみじみとした後味がありました。

 

電撃のピノッキオ

 海辺の町・渡久水町を騒がせる魚の大量死事件の原因である木彫りの人形・「電撃のピノッキオ」。※琴子が命名。

 この人形はものすごく不気味な存在感がありました。

 デザイン自体は作りの荒い木彫りの人形そのもの。手足の関節の可動域こそ配慮されている様ですが、顔に目や口もなし。まっすぐ伸びた鼻と右手に埋まっている石以外は特徴らしい特徴もなし。

 当然表情もなく、言葉も話しません。周囲に動くものが近づくと、恐るべき反応速度で右手から電撃を放ち攻撃します。

動きも毎日決まったルートを移動し、深夜は海に潜り電撃を放って回り、魚を大量死させ、昼は山の奥で体を乾かします。

何が不気味かと言うと、その得体の知れなさです。

表情もなく、意思も感じられず、やることは漁港の町で魚を大量死させるという悪辣な嫌がらせと、自然破壊。人形を止めようとする現地の妖怪たちが表情豊かで、感情が窺える分、一際その無感情さが際立ち不気味です。

現地の妖怪でも実力者らしい「猩々」と「大蟹」を異様に素早く正確な動きで撃退。人型の物体が素早く攻撃に反応し、手から電撃を放って迎撃する様は、まるでそのようにプログラムされたロボットのようにも見えますが、今度はそのことと、荒い木彫りの外観がミスマッチ過ぎて、やはり不気味です。

外観の不気味さ、感情を感じられないのに悪意に満ちた行動、存在の異質さ、この人形はまさに「得体のしれない存在」としての不気味さがとても強く感じられました。

 

星に願いを

この人形にどのような意味があるのかということと、それにどのように対処すればいいのかということが、今回のお話で、ミステリーとして頭を働かせる部分なわけですが、人形がひとりでに動いたり、電撃を放ったりの理由が「人形の右手の隕石≒宇宙的な怪異」であるという説明に少し面食らいました。

 強力な怪異は簡単に発生するものではないという世界観的な整合性を保ち、六花さんの介入の有無を事前に判明させるためには必要な説明なのですが、いきなり「宇宙の神秘」とぶん投げられるといっそ清々しいです。理解を放棄したからこそ、清々しく感じるのかもしれませんが。

 琴子が隕石に纏わる信仰や伝承の話もしていましたが、私は唐突にスケールが大きくなったことに呆気にとられました。

 九郎も読者である私と全く同じリアクションをしていたことには笑いましたが。

ミステリー作品としての楽しみ方については、今回はとりあえず、人形を止めるにはどうしたらいいか、という方法論と、人形の持つ意味・製作者の意図について、自分で「正解」と言っていいのではないかという結論にたどり着けました。

しかし、論理的な思考の結果というよりは、単なる思い付きからの連想ゲームでした。

人形の本当の意味について気が付いたのも、琴子が人形の行動の不可解な点を指摘してからだったので、自力とは言えないかもしれません。やはりミステリーの解決は難しいものです。

 

全自動嫌がらせ機能付き呪詛人形※サプライズ付き

 全自動嫌がらせ機能付き呪詛人形たる「電撃のピノッキオ」。近づけば回避不能な速度での電撃、破壊=呪いの完成なので、遠隔爆破なども不可。

 そんな人形への対処は、九郎が人形を生け捕り用の罠に誘導しつつ殺されて、「件の未来決定能力」を使い、罠の仕掛けが成功する未来を決定するというもの。

九郎の能力を当てにできるため、多少仕掛けが複雑で、本来なら失敗のリスクのあるかわりに、成功した時に確実に人形を封じることが出来る罠を採用。

合理的な作戦ですが、突っ込みを入れずにはいられない箇所が1カ所ありました。

作戦前に琴子が九郎に「なるべく死なない方向で」と言っています。どうやら、自分が妖怪たちの間で「恋人がいくら死んでも気にしないクールな方」扱いされているのが気に食わなかったゆえの発言の様です。

しかし、この作戦、件の未来決定能力を使うことが前提である以上、最低1回は九郎が死ぬ必要があります。※件の能力は死に際にのみ使用可能。九郎は人魚の肉も食べており、不死身なのでその場で生き返ります。

最初から九郎が死ぬこと前提の作戦を立てておいて、いまさら何を言っているんだと突っ込まずにはいられませんでした。琴子は本当にいい性格をしています。

さて、呪詛人形の機能と、製作者の意図について琴子が説明する場面、呪詛人形には魚の大量死によって、町を衰退させること、町の人たちに呪詛人形を破壊させることで、特定の人間を呪い殺すという、2つの意味があったことが明かされました。

いろいろな意味でえげつない呪いの人形ですが、「犠牲者を出して、苦労して人形を破壊した結果、気が付いたら殺人の罪を背負うことになっている」という部分に特に悪意を感じました。

人形の製作者は孫を交通事故で失った老人。観光客だった犯人たちは大した罪に問われず、町の人間たちは犯人を責めるどころか、事故死の報道が出て町のイメージが悪くなることを恐れ、犯人側を擁護する人もいたとか。

1人の憎悪ではなく、町全体の憎悪がもたらす痛みが届くのを願ったのです」という琴子の説明に、「子供の命を奪った犯人に町の人間は怒りを向けるべきだ。そうならないのは理不尽だ」という製作者の妄執と、理不尽を押し付けてきた町の人間たちに、「気が付いたら殺人者になっている」という理不尽を押し付けようとする悪意を感じた気がしました。

 人形にはさらにダメ押しのおどろおどろしいサプライズ付き。

この場面、おどろおどろしいサプライズ自体よりも、そのことに全く動じない琴子が印象的でした。

 

 

 「知恵の神」としての琴子は、動じず、冷淡で、場合によっては非常とも言える態度を取っています。九郎とラブコメしている時との落差が凄いです。

今巻のエピソード「ダミアン君を知っているか」では、その落差が顕著に出ている場面もありました。妖怪に襲われてもまったく動じなかったのに、その直後に面白いことに。

今回はオマケ漫画で琴子の父についての話に触れていましたが、闇の深い九郎の実家とは別に、琴子の家族にも興味がわきました。

琴子や九郎の事情をどこまで知っているのかという部分はもちろん、琴子が両親にどんな接し方をしているのかが気になります。