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シャボンと猫売り2巻 感想【ネタバレを含みます】

 

シャボンと猫売り 2巻 (ガムコミックスプラス)

シャボンと猫売り 2巻 (ガムコミックスプラス)

 

 仇である防疫局の桐島主管から猫売り捕獲のための協力を求められるなつめ。
 
その態度に不信感を覚えながらも、他に猫売りを追う方法がないなつめは、防疫局の猫売り捕獲作戦に参加します。シャボンと猫売り2巻の感想です。

 

ちひろと猫売り

 なつめが防疫局の本部で猫売り捕獲作戦の準備をしていた頃、猫売りに食べられたはずのちひろは、下水道で目を覚ましました。

 目覚めた途端に自分を猫にして攫った相手と対面。恐怖を覚えるちひろ

 ところが、猫売りに敵意はなく、下水道に集まった猫たち相手にほのぼのとエサやりを始めます。この猫売り、あからさまな不気味さが鳴りを潜めると、適度な不気味さがまるでゆるキャラみたいですね。

 ちひろは猫売りに抵抗しようとするも、なつめの様にはいかず怯えが勝ってしまい、不意に出てきた大きな百足から自分を守ってくれた猫売りの行動に驚き、さらにわけもわからずに全身を舐め回されて、驚いて突き飛ばしたら、ボコンボコンと音を立てて不自然な膨張をはじめた猫売りに思わず謝ってしまいます。

猫売りに翻弄される猫ちひろがかわいいです。

膨張した猫売りがシャボンと共にたくさんの猫を吐き出したり、猫たちにまとわりつかれながらエサやりを始めたりと、どこか幻想的でほのぼのした空気は、猫売りが防疫局で怯える猫たちの声を「受信」したことで一転。

それまで穏やかだった猫売りの顔が歪み、人間の様にふるまっていたのが、怪物めいた動きで下水道の壁や天井を這い回り始めます。

「完全な猫になるまでのタイムリミット」というちひろにとって衝撃の言葉を残して、風を巻き上げながら、渦を巻くように下水道の壁や天井を駆け抜けて消えていく猫売り。

猫売りの動きの非現実的な異質さと、それによって巻き上げられる落ち葉に感じる風圧の余韻。絶望の中に置き去りにされるちひろ。この場面もどこか幻想的である中に、迫力と勢いがありました。

この漫画の明から暗、緩から急への変化のつけ方は滑らかなのに勢いがあり、現実的な世界と幻想的な世界の比率が、常に変わり続けながらも入り混じっているかのような世界観の見せ方にも圧倒されます。

 

シャボンとはじけて消えるのは

 下水道で目を覚ます直前にちひろが見ていた夢の世界。この場面の演出が好きです。

 シャボンに包まれて夢の世界を漂う猫のちひろちひろを覆うシャボンが、シュワシュワと音を立てて少しずつ小さな泡になって溶けていきます。泡の中には「なつめ」や「ちひろ」と言った言葉を構成するひらがなが混じっています。

 なつめと桐島主管が猫化した人間が完全に猫になるまでの時間について話している場面から、この場面へと続く流れもあって、何を現しているのかの意味は明白。

 抽象的な様でわかりやすく、その上で「シャボンと猫」という一見変わった組み合わせのこの漫画のイメージにもすっきりとマッチしていて、このすっきりぴったりと収まる感じが好みです。

 1つだけ気になったのは、ちひろの夢の世界に他の「シャボンに包まれた猫」のシルエットが見えたことです。

 猫売りがちひろの体を舐め回した直後に、大量の猫を吐き出した事といい、ちひろは他の猫になった人間や、石鹸にされてしまった猫たちと、何処か、あるいは、何かでつながっているのでしょうか。

 

動から静へそこから再び動への表現の妙

防疫局の坑守(捕獲部隊とは別の地下作業員)たちによる、猫売りをおびき寄せて捕獲する作戦になつめも参加。ここで凄かったのが猫売りの登場シーンです。

 場の緊張が高まる中、気付いた時には既に宙を舞っている泡。それを洗い流すために起動されたスプリンクラーとはじけるシャボン。一瞬の放水の後に止まるスプリンクラー

その余韻の小さな音が響くことで、その場の静けさが強調されて、なつめの心音までもが響く中、別の音にその心音が乱されます。誰かの悲鳴と警笛が聞こえ、「真上だ!!」の声に見上げると、そこには哄笑する猫売りの姿が。

その場の状況の変化を読者が俯瞰でき、同時になつめ達の混乱と緊張も伝わってくる構成が素敵でした。動から静へそこから再び動へ。心音が体の内側で響く緊張の中で、不意に状況が動き出す感じが巧みに表現されていました。

 

不気味な猫石鹸のテーマ

猫売り捕獲作戦の結果を局長に報告する桐島主管。

 この2人の会話がいろいろと意味深です。

1巻では、桐島主管の姉である桐島栞は、防疫局の方針に反対して「失踪した」と言われていましたが、この場面の会話でも、死んでいるのか生きているのかはっきりしない、妙に引っかかる言い方をされています。

どうやら桐島栞は、「猫売り」こと廃棄物ニュウトと関係があるようなのですが、そのまま「桐島栞=廃棄物ニュウト」でもない様子。

そもそも、廃棄物ニュウトのなりそこないが防疫局の地下で大量に蠢いている中、何故、あの廃棄物ニュウトだけが「猫売り」としての自我を持って動き回っているのかが謎です。

局長の姿が「猫売り」にそっくりなのも気になります。

そして、それらとは別の意味で謎なのが、局長の部屋のギミック。

不気味な「猫石鹸のテーマ(CMソング風)」を奏でながら、局長に対面する桐島主管の左右から出てくる巨大な一つ目の猫のオブジェたち。

どんな理由で局長室にこんな大掛かりなギミックがあるのか全く意味が分かりませんが、その意味不明さに白けてしまうのではなく、その意味不明さも含めて不気味な味わいにしてしまっているのがこの漫画の凄いところだと思います。

猫石鹸のテーマもそれ自体はいかにも普通のCMソング風なのに、それが流れる状況が異様すぎるために、異様な状況の中で普通であることが逆に不気味で、最終的に曲自体の印象までもが不気味なものになりました。

 

なつめと南泉斬猫

刀身からマタタビ成分を放出する木刀・南泉斬猫。防疫局が猫狩りのために作った装備です。

猫をおびき寄せる匂いを放つ木刀で何をするのかと、具体的に想像するとえげつない代物ですが、なつめは今回、猫たちを救出するために使います。

避難のために猫たちをゲージに入れる必要があるも、なつめは猫アレルギー。人手も足りない状況。迫るタイムリミット。

なつめは南泉斬描を振り回し、マタタビ臭を振りまき、派手なアクションで猫たちを誘惑します。なつめに向かってくる大量の猫たち。

なつめはその猫たちをかわして、誘って、ケージにのせます。自分の体に決して猫を触れさせず、猫に木刀を当てることなく続くなつめの剣舞

冗談みたいな場面ですが、なつめの猫アレルギーの症状は重く、大量の猫にまとわりつかれようものなら呼吸困難レベルの発作は必至。

猫たちに一度も当てることなく続く剣舞も、なつめの卓越した技量があってこそ成立するもの。

事前にこれらの要素がしっかりと描写されているので、緊張感のある場面として成立します。

しかし、絵面だけ見るとやっぱりシュール。一度シュールに見えると緊張感がある事でさらにシュール。

「猫アレルギーの凄腕剣道少女が、マタタビ木刀を振り回して、猫に決して触れられないように、猫を決して切らないように剣舞をする」。こんな場面を思いついて、しかも、緊張感と面白さを両立させてしまう高津マコト先生のセンスには、驚くばかりです。

 

 

猫の津波に押し流される形で、後輩たちもなつめと合流。

葦毛の猫に導かれたちひろも、防疫局本部に到着。

人間を猫に変える石鹸を配る一方で、人間に追われる猫を助ける猫売り。猫を石鹸にすることに異常な執念を燃やす局長に率いられる防疫局。そして、猫迫の街で猫が尽きないカラクリに気が付き、局長に反旗を翻した桐島主管。その胸には自分と姉の運命を弄ばれたことに対する復讐心もあるようです。

それぞれの思惑が交錯した結果の混沌とした状況ですが、そんな中を自分にできる事をするために必死に走るなつめが素敵です。猫ちひろの仕草や反応も一々かわいいです。

まだまだ気になる謎は残っていますが、物語は1つの結末に向けて収束を始めているように感じます。

 物語の雰囲気も、登場人物の表情も千変万化するこの漫画ですが、その暗い部分が大量の猫たちと一緒にあふれ出しました。
 物語の結末が救いのあるものであればいいなと思いつつ、続きを楽しみにしています。