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ゴブリンスレイヤー3巻 感想【ネタバレを含みます】

 

牛飼娘とゴブリンスレイヤーの暮らす牧場に忍び寄るゴブリンの足音。常日頃からゴブリンとの戦いに明け暮れてきたゴブリンスレイヤーですが、今回は彼個人の大切なモノが懸った戦いになります。ゴブリンスレイヤー3巻の感想です。

 

牛飼娘とゴブリンスレイヤー

 ゴブリンスレイヤーの幼なじみであり、同じ村の生き残りでもある牛飼娘。

 惨劇の夜に村から離れていた彼女も、何があったかもよく分からない内に、家族も故郷も失ってしまったという過去を持っています。

 自然体で明るい性格にも見えますが、努めて明るく振る舞っていることがわかる描写もあり、失われてしまったものや、「あったかもしれない『今』」に想いを馳せながらも、変わり果ててしまった幼なじみの傍に寄り添う彼女。

彼女とゴブリンスレイヤーの距離感には、幸福と、もの悲しさの二律背反然とした趣があります。

ある朝、ゴブリンの大群が牧場を襲う予兆を掴んだゴブリンスレイヤーは、避難するようにと言いますが、彼女はそれを拒否します。

理由は「ゴブリンスレイヤー1人で残る気だから」と「ゴブリンスレイヤーの『帰る場所』がまたなくなってしまうから」。実際の所、彼女が避難すれば、ゴブリンスレイヤー1人残って戦うつもりでした。

ゴブリンに襲われるということが、「ただ死ぬだけでは済まない」ということを重々承知の上で、笑顔で誤魔すことに失敗した泣き笑いの表情で、逃げないと告げる彼女。

単なる意地でも、単なる我儘でもなく、人間的な強さと弱さが複雑に入り混じった彼女の決断の重さが、しっかりと感じられる場面でした。

 

槍使いと受付嬢、冒険者とギルド職員の心意気

牛飼娘の避難拒否によって、1人で牧場に残ってゴブリンと戦うことを選べなくなったゴブリンスレイヤー

 彼が次にしたことは、冒険者ギルドで他の冒険者に助力を乞うことでした。淡々と「小鬼の王(ゴブリンロード)」と大規模なゴブリンの群れについての説明をするゴブリンスレイヤーですが、いきなり「白銀等級(伝説レベル)の相手が来る」と言われても、僅かに懐疑的な声が出る程度で、冒険者たちも、ギルドも、ゴブリンスレイヤーの言っていることが正しいという前提で話が進みます。

ゴブリンスレイヤーという専門家に対する信頼が厚いです。

気になったのは、ゴブリンスレイヤーのゴブリンロードについての知識が、体験談らしきこと。過去に戦ったことがあるのでしょうか。白銀等級の相手と。

「ゴブリン退治は割に合わない」と、冒険者たちの反応は芳しくなかったのですが、その場の空気がゴブリンスレイヤーのことを認めている人たちによって、少しずつ変わっていく流れが熱いです。

ゴブリンスレイヤーの覚悟を問うた槍使いに、妖精弓手・鉱人道士・蜥蜴僧侶の3人組、槍使いの相方の魔女と少しずつ増えていったところに、受付嬢の援護でギルドから懸賞金が出ることになり、一気に流れが変わります。

冒険者に依頼するなら報奨を提示して筋を通せと言いながら、まだ誰1人協力を申し出ていない段階で「後で一杯奢れ」で引き受けた槍使い。

受付嬢は、場の空気が悪くなりだしてすぐにその場を去り、短時間で上司を説得して特別報奨金を取り付けてきたようです。場当たり的に事態の収拾を図るのではなく、即断即決で自分にできる事を見定め、実際に「ゴブリンの首1つにつき金貨一枚」という懸賞金をもぎ取ってきた受付嬢。

この2人がかっこ良すぎます。

 

ゴブリンスレイヤーVSゴブリンロード

森の中から姿を現す大量のゴブリンたちと、牧場で待ち伏せをする冒険者たち。

 冒険者が数名しかいないと思い込むゴブリンロードでしたが、大部分の冒険者は隠れて待ち伏せの体勢。あえて一部の冒険者の姿をさらすことでゴブリンロードの行動を読みやすい方に誘導する辺りに、ゴブリンスレイヤーの玄人ぶりが窺えます。

ゴブリンロードは冒険者たちの弓矢や魔法を防ぐために虜囚を括り付けた盾を使い、乱戦になると狼に騎乗したゴブリンライダーを投入するなど、対冒険者戦術とでも言うべき戦い方をしますが、そのことごとくがゴブリンスレイヤーの「事前の指示」によって潰されます。

その場にいないにも拘らず、相手のやり口の説明と、その対策の指示だけで、ゴブリンロードの戦術のことごとくを潰してしまうゴブリンスレイヤー。ゴブリン専門の銀等級冒険者の知識と戦術を他の冒険者が認めるようになることに、納得できる展開です。

いろいろな装備を身に着けた冒険者たちとゴブリンの乱戦や、他の銀等級冒険者たちの戦いも見応えがありました。

切り札であった「小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)」の率いる部隊さえ囮にして、ゴブリンロードは逃げ出します。自分の巣穴には十分な手下も貯えもあるのだから、自分が生き残っていればまだやり直せると考えるゴブリンロードの前に、ついにゴブリンスレイヤーが姿を現します。

「ゴブリンロードの逃走先の方向」から、「既に血濡れた剣」を手に、闇の中から幽鬼のごとき静かな重圧を放ちながら現れるゴブリンスレイヤー。この場面は痺れました。

ゴブリンスレイヤーの大切なものを守るための戦いであるにもかかわらず、ここまで姿を見せなかった理由に理解が追いつき、謎が解けると同時の答え合わせが最高でした。

大規模な戦いが繰り広げられている間に、ゴブリンロードの巣の位置を割り出し、潰してきた上に、逃走ルートに先回り。

「ゴブリンをよく知る冒険者」と、「冒険者をよく知るゴブリン」の戦いはゴブリンスレイヤーの完全勝利。自分と似ている部分がある敵を圧倒して、格の違いを見せつける主人公のかっこよさに、ゴブリンスレイヤーというキャラクターの持つ、おどろおどろしい凄みも出ていて、とても味のある場面でした。

淡々とした、その上で凄みのある調子で「お前の故郷は、もうない」と宣告するゴブリンスレイヤー。声の雰囲気まで正確に想像させる漫画としての表現力にも痺れました。

 

復讐者としての格の違い

ゴブリンスレイヤーとゴブリンロード。両者は共に故郷を相手側の種族に滅ぼされた過去があり、同じ境遇の復讐者であるわけですが、並べるとその心構えと執念の差は歴然です。

 食事の時すらも鎧兜を外さない病的なまでに油断のないゴブリンスレイヤー。自分が勝利したと思うや否や慢心して相手を甚振るゴブリンロード。

自分の行動の本質が、自分の最も憎むゴブリンと同じであることを重々承知で、それでも復讐の戦いを止めないゴブリンスレイヤー。自分が人間による一方的な被害者の立場であるとし、同時に一方的に奪う立場であると相手を見下すゴブリンロード。

 戦いの最中に喜怒哀楽を感じさせず、ただひたすらにゴブリンに対する執念と殺意のみを見せるゴブリンスレイヤー。激昂したり、愉悦に浸ったり、恐怖に怯えたりと感情表現豊かなゴブリンロード。

復讐者としての気迫がまるで違います。

 最後の決着の場面も、泣き落としのだまし討ちで女神官を葬ってやろうというゴブリンロードの悪意を、鬼気迫るゴブリンスレイヤーの執念が圧倒する様子がぞくりとするほどの迫力でした。

 

 

今回は、復讐者としてのゴブリンスレイヤーの格の違いが描かれると共に、そんな彼が人間として欠けていたものの一部を取り戻すエピソードでした。

特に「俺が死ぬと泣くかもしれん者がいる」というセリフに、彼の心境の変化を感じられました。

鬼気迫る復讐者としての姿と、人間として欠けた部分を多く持ちながらも周囲に好かれる人柄が、両方ともしっかりと描かれているからこそ、それぞれが際立ちます。

この作品は、原作由来の物語も、漫画としての見せ方も、両方の面でとても素敵です。