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ゴブリンスレイヤー5巻 感想【ネタバレを含みます】

 

 水の街の地下遺跡で、ゴブリンたちの罠に掛かったゴブリンスレイヤー一行。
 
毒気による攻撃を凌いだものの、退路のない場所で、小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)率いる大量のゴブリンたちとの闘いになります。
 
ゴブリンスレイヤー5巻の感想です。

 

魅せてくれる戦闘描写

 嘘有無象。数の暴力。どちらの言葉も正しく当てはまるゴブリンの群れですが、今回は正面から押し寄せてきます。

 敵に切り込み、倒したゴブリンから奪った武器を次々に持ち替えながら戦うゴブリンスレイヤーをはじめ、一行の戦闘描写に見応えがありました。

敵に突きさした武器をそのまま手放し、その敵が倒れる前に持っていた武器を奪い次の敵を仕留め、さらに仕留めた敵が倒れる前にまた奪った次の武器を構えるゴブリンスレイヤーの手並みが鮮やかです。独特の戦い方と、その戦い方に手馴れていることがよく分かる描き方でした。

囮も兼ねてとにかく派手に立ち回る蜥蜴神官や、至近距離で敵を射抜いた矢を素早く引き抜きもう一射する妖精弓手など、魅せてくれる戦闘シーンでした。

 

小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)と「ごくありふれた結末」

ゴブリンの集団の中で浮いているのが小鬼英雄(チャンピオン)。変異種ということですが、ホブゴブリンよりもさらに大きく、他のゴブリンと同じ種族だとは思えない体格です。

 ゴブリンスレイヤーは物影からの不意打ちでこれを仕留めようとしますが、小鬼英雄は目の前の冒険者の数がいつのまにか減っていることに、ギリギリのタイミングで気が付きます。

 攻撃を防がれ、次の手に移ろうとしたところにゴブリンが飛びつき、そちらの対処に一瞬の時間を取られたゴブリンスレイヤー

 そこに小鬼英雄の大ぶりの一撃が直撃します。

 ゴブリンスレイヤーがものすごい勢いで弾き飛ばされ、天井に激突して跳ね返り、石櫃に叩きつけられる瞬間を目撃する女神官。

 女神官の集中力が乱れたことで、ゴブリンの群れの動きを制限していた≪聖壁(プロテクション)≫が消えてしまいます。

 立て直そうとするも動揺してしまいうまくいかず、他の仲間たちもゴブリンの群れに飲まれていきます。

 油断をせずとも、小さな不運の重なりが致命的な結果につながり、1つのミスが、一行の全滅につながりかねない流れを呼び込みました。

 剣の乙女の不穏な言葉・女神官の感じていた不安が、そのまま現実化するかのような惨状は、ダークファンタジーならではの残酷さでした。

相変わらず絶望的な状況・精神状態の描写力が凄かったです。

                                        

「ごくありふれた結末」を覆すもの

一行がまさに全滅の危機に瀕している場面で、ゴブリンスレイヤーは目を覚まします。

 倒れた体制のままポーションを飲み干し、石櫃の影、散らばった人骨の中を這いながら状況を確認。

 自分が死にかけでも、仲間が一刻を争うピンチでも、静かに的確に動くことのできるゴブリンスレイヤーですが、何も感じていないわけではありません。

 ゴブリンに群がられ服を剥がれる妖精弓手の姿に、かつての姉の姿が重なります。

しかし、感情は燃え上がりながらも、行動自体は冷静そのもの。

 瀕死のゴブリンスレイヤーを発見し、ニヤケ顔になるも、仲間を呼ぶことすら出来ずに惨殺されたゴブリンたちの死に様に、彼の「研ぎ澄まされた怒り」の凄まじさが窺えるばかり。冷静なゴブリンスレイヤーの行動を描きつつ、その激情もしっかりと描写しているのが凄いです。

 女神官を痛めつけて弄ぶ小鬼英雄の背後から這い寄り、死体の髪束を使った絞殺具で一気に締め上げるゴブリンスレイヤー

 ここの場面、既に終わってしまったかのような絶望的状況から、一気に反撃に転じる流れが熱いです。

背中の「何か」を振りほどこうと配下を巻き込みながら暴れる小鬼英雄に慌て、気がそれたゴブリンたちの隙をつき、反撃に出る蜥蜴神官・妖精弓手・鉱人道士たち。彼らの暴れっぷりも気持ちが良かったです。

背後の「何か」の恐怖に飲まれ、振り返った小鬼英雄の右目を貫くゴブリンスレイヤーですが、ついに振り払われ、満身創痍の身体でゴブリンたちに囲まれます。

ところが、仲間の危惧をよそに、圧倒的な殺気を放ちゴブリンを寄せ付けません。

ゴブリンスレイヤーの気迫と殺意に飲まれ、ものすごい勢いで逃げだすゴブリンたち。

精神力で肉体の限界を凌駕したり、有利だったはずの敵が気迫で負けたりする展開は、今日日、漫画に限らず様々な物語でよく見かけます。ただ、この漫画の迫力・描写力はそんじょそこらのそれとは段違いです。

 

剣の乙女と≪蘇生(リザレクション)

小鬼英雄率いるゴブリンの群れを撃退した後、限界を超えて倒れたゴブリンスレイヤーですが、≪蘇生(リザレクション)≫の奇跡によって回復します。

 奇跡の発動に「清らかな乙女」の同衾が必要ということで、奇跡を行使する剣の乙女とは別に、女神官が協力。

名前通りの死者の蘇生こそできない様ですが、満身創痍を通り越してほとんど死にかけていたゴブリンスレイヤーが完治したことからも凄まじい効果が窺えます。

ゴブリンスレイヤーに己の過去を打ち明ける剣の乙女。

ゴブリンスレイヤーに縋りながらも、まだどこか含みのある物言いに、色香で迫るかのような態度、前の巻での女神官の不安を煽るかのような発言といい、曲者感がありましたが、オマケページの小説を読むと印象ががらりと変わりました。

この人、自分の美貌や色香について完全に無自覚なのですね。

おまけに「剣の乙女」としての世間向けの態度と、自分の本心の板挟みになっている上に、意味深な発言・態度にも特に裏の意味はなさそうです。こういうのも天然というのでしょうか。

 

会話の情緒と余韻

寝起きに面白かわいいリアクションを披露しつつも、ゴブリンスレイヤーの様子がおかしいことに気が付く女神官。

 他のメンバーが調査を進める間、病み上がりの2人は街で過ごすことになります。

あいすくりんを片手に、一見平和な街を見下ろしながら、話し出す2人。この場面、会話の情緒と余韻が素敵でした。

 ゴブリンスレイヤーの様子が変だったのは、女神官が重傷を負ったため。自分が危険の中に身を置くことに慣れていても、仲間が危険な状態になることに慣れていなかったからです。そして、これからそうなることも恐れています。

一方で、女神官も、ひたすらに危険で終わりのないゴブリンとの闘いを続けるゴブリンスレイヤーをどうにかしたくて悩んでいた様子。そして、彼もいつか死んでしまうのではないかと恐れていました。

 2人とも「怖い」という言葉を使いながらも、「何が」怖いのかをはっきりと言葉にはしていません。しかし、これまでの物語と、会話の流れから意味をくみ取ることはできます。

 ゴブリンスレイヤーが小さい頃のエピソードとして語った「怖かろうが歩くしかない」という言葉が、そのまま女神官の抱える不安への、とりあえずの答えにもなっていて、綺麗にまとまりつつも余韻を残す感じが素敵でした。

 

(諸事情により)名前を読んではいけない怪物・仮称「大目玉(ベム)

水の街の地下、小鬼英雄と戦った場所よりもさらに地下深く潜った場所。そこでゴブリンたちの住処とつながる「転移の門」を守っていた「名前を読んではいけない怪物」・仮称「大目玉(ベム)」。

 作中では大真面目に「名前を呼んではいけない…そういう類の怪物ですよね」と話しているのですが、気になって調べてみると、名前を呼んではいけない理由が、現実世界の諸事情でした。

作中の人物が大真面目に話していることと、実際の理由のギャップが、単純なメタ表現とはまた違った面白さです。

ゴブリンスレイヤー』には他にも知っているとそれまでと見方が変わるネタがいろいろ含まれている様です。

この大目玉、本体の目玉は≪解呪(ディスペル)≫の効果の邪眼で、魔法を封じ無効化します。さらに、無数に伸びた触手の先の目玉から、石壁をも溶かして貫通する熱線を四方八方へ放つというとんでもない怪物。

しかしながら、目元だけでいろいろな表情を見せ、鉱人道士の≪酩酊(ドランク)≫の魔法で眠らされた時は綺麗に丸くなって眠ったり、ゴブリンスレイヤーのまいた小麦粉で視界をふさがれた状態で辺りをキョロキョロと見まわしたりと、妙な愛嬌があり、かわいいと思ってしまいました。

 

 

実験を兼ねた粉塵爆発で大目玉を倒したものの、ゴブリン退治に使えそうにないことがわかり、心底残念そうなゴブリンスレイヤーが面白かったです。
 
大目玉の死体に剣を突き刺しながら「これではゴブリン共相手に使えん」と言っていますが、剣の柄に両手を置き、背中を丸めて体重をかける様子が、落ち込んでがっくり来ているように見えなくもありません。背景が黒一色だったためなおさらそう見えました。