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この愛は、異端。3巻 感想【ネタバレを含みます】

 

 すれ違ってきた淑乃とバアルの関係についに決着がつく、『この愛は、異端。』3巻の感想です。

 

淑乃とバアルの過去、バアルサイド

 淑乃が幼少の頃より度々事件や事故に巻き込まれていたのは、その美しい魂を狙う「神」や「魔」に狙われ続けてきたからです。そして、それらから奇跡的に生き延びてきたのは、奇跡ではなく、バアルが守ってきたからです。
 
1話目の時点からこれでもかというぐらいに伏線が張られていましたが、今回はバアル側の視点でその事実がはっきりと語られました。
 
夜は1度寝たら起きない両親に変わり、淑乃の面倒を見て、遊び相手になり、淑乃を狙う存在達と戦う日々。悪魔演出用の姿を怖がられたため、見た目は天使そのものの本性で淑乃の世話を焼く姿は、もう完全に守護天使
 
当初の立ち位置はまさに魂を狙う悪魔だったわけですが、そこから淑乃に情が湧いて行く様子がしっかりと描写されていました。バアルの献身と、淑乃の求めていた「無償の愛」が常に傍ににあったという事実。これを淑乃が知らないことが何とも切ないです。
 
バアルが姿を隠した3歳よりも後の部分はダイジェスト形式でしたが、事前に伏線が張られていた場面との比較がしやすい構成や、森山絵凪先生の画力のおかげで見応え十分。
 
相手の山神が強敵で、淑乃1人を守るのが精一杯だった交通事故は、両親の遺骨を前に死んだ目で涙を流す淑乃と、淑乃に気付かれなくとも、傷だらけの姿で隣に寄り添うバアルの姿が印象的でした。
 
回想を越えて、淑乃を思う自分の気持ちに向き合ったバアル。
 
しかし、バアルは淑乃のためならば自分の存在が掻き消えてもいいとすら思った「その感情」を何と呼ぶべきなのか未だに知りません。本当にもどかしいです。

 

「対価」の真実

回想を通して明かされた「対価」の真実。

 両親を失い、親戚たちに虐待され、ついに自殺までしようとした淑乃を助けるために誘導し、儀式までこぎつけたバアル。

 淑乃の肉体も手に入り、肉体の穢れを嫌う「神」や「魔」を遠ざけることも出来て一石二鳥のはずだった契約。

しかし、淑乃の涙を前に「体」を対価とする契約を結ぶことが出来なかったバアル。

 そんなバアルが苦肉の策としてでっち上げたのが「口付けと愛撫」という偽りの対価でした。

1月に1度は対価を払うという契約内容も、「神」や「魔」を遠ざけ、淑乃の命を長らえるためのもの。

以前、旭君が「彼女の幸せを願うなら、彼女を解放してあげるべきだと思います」と言った時に、やたらと感情的な反応をしていたのも納得がいきました。まさに「お前に何がわかる」だったわけですね。

新たな真実が明かされることで、それまで見えていたものが、がらりと姿を変える構成は好きです。丁寧に伏線が張られ、演出がしっかりしていればなおさらです。

 

アスモデウス夫妻

淑乃との結婚を決意したバアルは、実際に人間と結婚した悪魔・アスモデウスの家を訪問します。

悪魔は、人間態では相手が悪魔であることは分かっても、お互いの正体がわかりません。最初はにこやかに玄関を開け、「ベリアル※バアルの本名」の名前を聞いた途端に笑顔のままドアを閉めようとするアスモデウスと、ドアにしがみ付いてこじ開けようとするバアル。2人の関係が伺えます。玄関先で大人気ない喧嘩をする大悪魔2人のやり取りに笑いました。

1巻でもアスモデウスの結婚のことは、バアルとサタンの間で話題になっていましたが、てっきり正体を隠して人間として結婚したのかと思っていたら、奥さんであるサラさんは夫の正体をご存知。しかもサラさんは、“元”クリスチャン。

清貧を愛する敬虔な彼女に15年かけて40回ほどプロポーズをやり直して口説き落とし、そのことで上司に半殺しにされ、1万年かけて集めた魂をすべて手放し、現世での財産もすべて寄付した上で、「サラがいればそれでいい」と笑うアスモデウス

今でもクリスチャンの名残を残しながらも、夫の悪魔としての「仕事」も、死後に自分の魂が子供たちとは別々の行先になってしまうことも全て受け入れた上で、「この人となら、どんな事も乗り越えていけると信じているから…」と語るサラさん。

この2人の関係性が好きです。お互いに相手がどのような存在であるか、それぞれの価値観を認めあった上で現実的な妥協点を築き、気持ちはしっかり相思相愛。

2人は幸せに暮らしましためでたしめでたし」みたいな漠然とした感じではなく、現実的にお互いのどうしようもない部分や譲れない部分を乗り越えた上で、しっかり幸せになっている感じがいいです。

異類婚姻譚の成功例とでも言いますか、穏やかな感じなのに、見ていてニヤニヤしてしまう様な趣があります。

アスモデウスを馬鹿にする時に笑う以外は、終始むっつりした表情で、自分の聞きたいことを無遠慮に聞くバアルに対して、度々追い返そうとしつつも、なんだかんだ答えてあげるアスモデウス

 バアルがアスモデウスの元を訪れた理由を見抜き、バアルの態度も異に介せずに、細やかで行き届いたアドバイスをするサラさん。

やっぱりこの2人好きです。

 

ラファエルの襲来

バアルが淑乃へのプロポーズを決行しようとした当日に、大天使ラファエルが襲来。

ラファエルの口から、バアルは生まれるよりも以前から淑乃に付きまとっていたことや、これまで淑乃に隠していた様々な事実が告げられますが、情報の伝え方がずいぶんと恣意的です。

交通事故の時に淑乃の両親を見殺しにしたという言葉にこそ弁解したものの、他のことは否定できないバアル。淑乃を大切に思っているからこそ嘘は着けません。

涙を流す淑乃と、それを見たバアルの表情が切ないです。

「後で治せばいい」と淑乃を巻き込むことを辞さないどころか、バアルが庇っていることに気が付くと積極的に利用していくラファエル。

淑乃を庇ったバアルは、一方的にラファエルの剣を受け続け、あわや首を撥ねられるという所で、間一髪、サタンの救援が間に合います。

死にかけのバアルに一刻の猶予もないと判断したサタンは、「バアルと淑乃の契約書」を渡す代わりに手を引くようにラファエルに持ち掛けますが、バアルは頑なに契約書を渡すことを拒否。死にそうなバアルに駆け寄ろうとする淑乃の目を覚まそうと、ラファエルは淑乃の両親を実体化させ、説得させます。

この場面、サタンが読者の言いたいことを全部言ってくれました。

本来なら生きることのできなかったはずの淑乃をバアルが守り続けてきた事実。

淑乃の自殺を止めたのがバアルであること。

「対価の真実」と、本来受け取るべき対価を受け取らず、いつだって魂と肉体の契約を迫ることが出来たにもかかわらずしなかったこと。

バアルが淑乃にプロポーズをしようとしていたことは知らず、淑乃が離れていった方がラファエルとの取引に都合が良かったにもかかわらず、それでも黙っていられなかったサタン。

その上で、自分の私財・「淑乃と同格の美しい魂」を渡すという条件までだして、瀕死のバアルに淑乃を諦めるよう説得します。いい上司過ぎます。

それでもバアルは契約書を渡すことを拒否。「5千年に1人の美しい魂」ではなく、「淑乃」でなければ何の意味もないと言うバアルが取り出したのは、契約書ではなく、「婚姻届」でした。

 

 

見つかった「無償の愛」

瀕死のバアルが淑乃にプロポーズしたのが18話のラストシーン。そして19話となるわけですが、この19話目、最初から最後まで全部好きです。

11つの場面での淑乃とバアルの表情。

自分と結ばれた場合、淑乃の人生・死後がどうなるのか、11つ説明していくバアル。淑乃の「結婚をして、子供を産み、家庭を築く」という望みを全て叶えると言うも、「私の事…愛してる…?」という問いに、「…さあ……どうですかね…」としか答えられないバアルの不器用さと誠実さ。

決意のこもった目で両親にこれから最低の親不孝をすると告げ、結婚指輪をはめる淑乃。

何よりも、さんざん拗れて、すれ違ってきた2人の気持ちが漸く通じ合ったというのが最高です。ここまでの間、徹底的にすれ違う2人の様子が痛々しくも丁寧に描かれてきたので、感慨もひとしおです。

バアル自身が見つけることが出来なかった「バアルの愛」を、真実を知った淑乃がバアルの中に見出すという流れもたまらないです。「バアルは私を愛してる」という淑乃の言葉を聞いたバアルが、一瞬驚いてから、納得した顔になる描写も良かったです。

 子供の頃からの願いと、偽らざる自分の恋、その両方を貫けた淑乃。

 淑乃の「心」を手に入れることが出来たバアル。

 死に分かれてそれっきりだった両親とも、直接言葉を交わして結婚報告できましたしね。

淑乃はラファエルに、自分を守ってくれたのは神様ではなく、バアルだけだったということについては、チクリと皮肉を言っています。

しかし、バアルが殺されそうになった事については、恨み言の1つも言っていません。この点にも、淑乃の覚悟が窺えます。

ラファエルは淑乃を騙したり、故意に情報の一部しか伝えなかったり、戦いに巻き込んだりと敵役ですが、悪魔から淑乃を助けるつもりで行動していました。

善か悪かで言えば、ラファエルが善で、バアルが悪であるわけです。淑乃自身の言葉を使うのならバアルは「罪悪の化身」であるわけですから。

そのことを重々承知で、バアルがこれからも大勢の人間を不幸にすることをしっかりと理解した上で、決意をした顔で結婚の意思を告げ、バアルのために涙を流し、バアルを想って笑みを浮かべる淑乃だからこそ、その覚悟に、その愛に、深みを感じることが出来て素敵でした。


精緻なモノローグと、言葉で表現することが難しい繊細な部分を補う絶妙な表情描写の組み合わせ。それによって成立するこの漫画の心情表現はたまりません。もう本当にたまらなく好きです。

私は今まで、この漫画はハッピーエンドでも、バッドエンドでも、2人の恋に決着がついた時点で終わる物語だと思っていました。

 しかし、物語はまだ続く様です。

 これまでが「悪魔と人間の禁断の恋」の物語であったのなら、ここから先は「異類婚姻譚」。

こちらも好きなジャンルなので、2人の物語の続きをとても楽しみにしています。