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教国のレクエルド1巻 感想【ネタバレを含みます】

 

教国のレクエルド(1) (Gファンタジーコミックス)

教国のレクエルド(1) (Gファンタジーコミックス)

 

 『魔女の下僕と魔王のツノ』の物語が始まるよりも過去のお話。アルセニオが人間としてイスパニアで暮らしていた頃の物語。教国のレクエルド1巻の感想です。

 

注意

 この記事は、『教国のレクエルド』だけではなく、同じ世界観を舞台とした物語である『魔女の下僕と魔王のツノ』のネタバレも含みます。ご注意ください。

 

サウロとアルセニオ

 この物語は本編である『魔女の下僕と魔王のツノ』の登場人物であるサウロとアルセニオの2人の過去のお話であるわけですが、今回読んでみて、特に印象に残ったのがサウロの心情に纏わるあれこれです。

 アルセニオと出会った当時のサウロの様子は、綺麗に屈折しているというべきか、真っすぐで歪んでいるというべきか、心に割り切れないものを抱え込んで、捻くれてしまっている感じがしました。

アルセニオの目の前で、いきなり男に殴られ、その理由について「俺があいつの女寝とったから多分そのせいだ」と笑顔で言います。寝取った理由ついても、「その女が好きというより、あの男が嫌いなんだ」という屈折ぶりです。

サウロが物語の中心にいるので、その心情を窺える描写や情報も多く、そこから判断するに、サウロは基本的に善なるものを尊く感じる価値観の持ち主です。信仰心も厚い様でした。

その一方で、汚い世の中に辟易するのに十分だろう境遇。

両親が死んで、親戚は遺産を持ち逃げし、金銭的な理由で騎士学校を退学。

男女関係でもいろいろ汚いものを見ていそうでしたし、イスパニアという国自体、神の教えを掲げる宗教国家でありながら、権力構造に歪みを感じる部分があります。貧しい兵士も騎士になれるという建前ながら、兵士仲間に騎士になる夢の話をすれば「現実を見ろ」と笑われる始末。

神の教えに従い、綺麗なものを信じて生きたいのに、周りが汚いものだらけで捻くれてしまったというのが、私の抱いたサウロの印象でした。

そんなサウロにとって、自然体で善を貫き、正しさと優しさを体現するアルセニオが、どれだけ尊かったか想像するのは難しくありません。

それが女になったりしたら、まさに理想の女性。本編でアルマになったアルセニオへのサウロの反応も「これは仕方がない」と納得してしまいました。

もち先生流石の心理描写です。

 

死霊魔術でゾンビパニック

本編では9巻の時点まで善良な魔女しか出てきておらず、アルセニオも魔物なので、魔女や魔物に対して苛烈な反応をするイスパニアは、偏見に凝り固まった悪者という印象でした。とりあえず怪しかったら殺しておくという雑な魔女狩りのイメージです。

 ただ、今回は本当に「邪悪な魔女」が街を襲撃します。それもかなり用意周到かつ大規模。

ビジュアル的にはゾンビ映画。実情は大規模テロに近いでしょうか。

行方不明になっていた奥さんを見つけて旦那さんと娘2人が駆け寄ったところ、顔に蛆が湧いているといった、本編では見たこともないようなグロテスクな場面もありました。

町中に大量のゾンビが放たれ、犠牲者=仲間を増やしていくという質の悪さです。

 魔女を敵視するトノコ信教の教義にどういった背景があるだとか、邪悪な魔女がどの程度いるだとかはわかりませんが、実際に登場した邪悪な魔女の実例としては、インパクト十分でした。

 この作品の世界観では、魔法が「魔法使いの魔法」と「魔女の魔法」に分かれていますが、攻撃や防御といった直接的な戦闘手段である「魔法使いの魔法」に比べ、「魔女の魔法」は搦め手が厄介ですね。その辺にも魔女が敵視される理由の一端があるのかもしれません。

 

「邪悪な魔女」

避難民に混ざり、アルセニオが逃げ込んだ教会に侵入していた魔女。

背景が語られるどころか、この魔女の名前すら出てきていないのですが、外見、振る舞い、言動に悪役としてのいい味わいがありました。

使う魔法や戦闘手段、言動や性格から見える方向性と言いますか、戦闘にも隠密行動にも向かないだろうドレス姿や、劇を演じるかのような立ち振る舞いまで含めて、この魔女のキャラクターとしてしっくりくるといいますか、人物像が綺麗にすっきりまとまっています。

戦闘方法も死霊魔術による増殖する物量戦と、空中に浮かべた魔法陣から飛び出る鉤爪の様な物を使っての攻撃と防御。動きづらそうなドレスでも問題ありません。

漫画の中身にシリアスな要素が多くなる程に、登場人物の不合理な行動や、露骨な説明セリフを雑味に感じることが多くなります。

例えば、敵が戦闘には向かないだろう動きづらそうな格好をしていたり、何の脈絡もなくいきなり自分語りを始めたり、わざわざ自分の能力のネタばらしをしたりといったものです。

作品ごとの世界観の違いや、演出や表現方法の程度の問題にもよるのですが、漫画を読んでいるとたまに気になることがあります。

その点、この魔女は「ペラペラ喋る」部分も含めてキャラクターが完成しているというべきでしょうか。

火の精霊を封じ込めた杖や、自分の術を自慢気に語ったり、アルセニオに焼きごてを押し当てる場面でも、反対側の手でドレスの裾をつまんでいたりと、「邪悪な魔女」である自分に浸っているのか、それともイスパニア人の恐怖を煽りたいのかはわかりませんが、一見非合理に見える立ち振る舞いにも一貫したものを感じました。

焼きごてを素手で掴むという想定外の行動に出たアルセニオに動揺しつつも嘲笑し、事が思い通りに運ばず一度は激昂するも、散り際には自分を殺したサウロに、澄ました態度で呪いの言葉を残す等、「邪悪な魔女」としての矜持の様な物を感じました。

普通のトノコ教徒の物とは色違いの真っ黒な宗教シンボルをつけているのも、如何にも意味がありそうで想像力を掻き立てられます。

 名前も背景も語られず退場してしまったのがもったいない悪役ぶりでした。

 

 

 本編と比べて、コメディーが少な目で、シリアスな部分が多くて驚きました。あちらは戦闘中でも、大ピンチの状況でもギャグを放り込んできますからね。

ただ、ギャグは控えめでもセリフのセンスは相変わらずで、軽快なテンポが読んでいて気持ち良かったです。

 後にアルセニオの身体に宿るサラマンダーも登場。アルセニオのトラウマや、本編での断片的な情報から察するに、ここからの物語は過酷な物になりそうです。