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セントールの悩み18巻 感想【ネタバレを含みます】


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今回もボリュームたっぷりのセントールの悩み18巻の感想です。

 

日本人馬の足さばき

 流鏑馬道場で「足の使い方」の練習をする紫乃ちゃんと牧ちゃん。

 本来は馬と同じく、後ろや横に歩けないのを訓練で補うことで、日本人馬は戦国の世で活躍したらしいです。

もちろんこれは様々な要素が絡まりあう歴史背景のごく一端に過ぎないわけです。

ただ、基本的な身体能力で勝る人馬の最大の弱点である「小回りが利かないこと」が、後天的な技術で補えるなら、「そりゃ人馬無双できるよな」と、そういう納得がありました。

この世界には、姫乃の祖先みたいな明らかに身体能力がおかしい人馬もいたみたいですからね。今巻の体育祭エピソードでは、形態間の身体能力差が縮小傾向にある可能性に触れていましたが、姫乃はそういった中で先祖返りを起こしたケースなのかもしれませんね。

お手玉を投げ合いそれをよける訓練で、ぶりっ子してわざとあたる姫乃に、紫乃ちゃんが感情の死んだ目をしていたのに笑いました。あれだけなついている紫乃ちゃんにこんな目をさせる姫乃。いつもの紫乃ちゃんの姫乃へのなつきぶりがあるだけに、ギャップで笑えました。

 

盛りだくさんの体育祭

 146話は体育祭。

 パン食い競争のパンをぶら下げるフレームが、各人の形態差や、体格差を考慮してカクカクと曲がっています。高い位置にセットした棒からロープの長さで調節すればいいと思うのですが、ロープの揺れ幅まで公平にするためでしょうか。

 形態差だけでなく個人の体格差にも配慮した方が公平だという感じはしますが、そういうことまで言い出したら身体能力だって11人違う訳です。

 にもかかわらず、一回走るごとにフレームの縦棒を11本調整するという面倒くささ。

 完全な公平が不可能であること、現実的な公平の難しさ、そして機械的な公平の馬鹿馬鹿しい面をこのカクカクしたフレームは見事に表現していると思います。見事な視覚化。わかりやすくて、面白くて、皮肉も聞いていて、これぞまさに風刺といった趣です。

 学ランで応援合戦する姫乃たちは可愛らしいのですが、これは男装とは少し違う気がします。鴉羽さんの妄想に出てきた御霊さんは男装という感じだったのですが、姫乃たちは学ランの前を開いてしまっている所で何かが違う気がします。

 衣装については、個人的にはスーちゃんのハチマキが一番心に響きました。

南極人の頭部構造的に、額というよりも顎のあたりに巻き付ける形になっているのですが、リボン結びの結び目が頭の上の方にしてあるのがポイントです。スーちゃんのおしゃれ心を感じます。

とんち前提の借り物競争も面白かったです。御牧さんが引いた「世界一の男前、但し男ではない」というお題は、体育祭実行委員に御霊さんがいることを考えると、作った人は正解ありきで作っている様に思えます。もしくは、とんちのお題を考えている時に目の前を御霊さんが横切ったとかでしょうか。

ゴールした後の御霊さんの唐突なデレに、まさかこれをするために御霊さん自身が仕込んでいたのではと、馬鹿馬鹿しい妄想もしてしまいました。

 

鴉羽さんの決意……しかし……

 部室で姫乃に膝枕をしてもらって甘える鴉羽さん。人馬の膝枕の感触は想像できませんが、柔らかいのでしょうか。

鴉羽さんは腹黒でぶりっ子な所もありますが、甘えたがりなのは演技ではない様です。

 姫乃の様な姉が欲しかったと言い、「お姉さんがいるハズでは?」とスーちゃんに言われた鴉羽さんは、露骨に機嫌が悪くなります。

 幼少の頃から周囲の人間を「猿」と見下してきた鴉羽さんは、中学時代に御霊さんと出会い、高校に入学し姫乃たちにも出会ったことで、広い世界には様々な人間がいると学んだようです。

 しかし、自分だけが特別ではないと学んでも、基本的に周囲を見下す彼女の姿勢はそのままです。彼女は自分の家族に不満がある様子。

 姉が学校でいじめを受け、不良に恐喝されていたことを知るとその場で割って入りますが、不良そっちのけで「情けない」と姉を足蹴にする鴉羽さん。

 後日、不良の仲間に絡まれたことで、本格的に姉の問題への介入を決めます。

 尊敬する御霊さんが、まだ「子供」であるにもかかわらず、家族を背負って「母親=大人」役をやっていることに思う所があったようですが、鴉羽さんのそれは、御霊さんのしていることとは違いすぎます。

 御霊さんはそれこそ家族のためならば自分が地獄に落ちる覚悟も決めた上で、家族が幸せになれるように考えて行動しています。

父親の夢や、妹たちの性格にも考慮し、11人を尊重していますし、多少歪みを感じるやり方ですが父親に甘え、自分のガス抜きまで完璧です。

鴉羽さんの場合は、一方的な上から目線の押し付けである上に、感情任せのイライラした態度を隠しもしません。

大人役をやると決めた鴉羽さんの態度が子供過ぎます。実際、鴉羽さんは子供なわけですが、家族の前だと感情がむき出しになるところに、彼女の子供の部分を強く感じました。

自分で問題を解決できない姉と、自分の娘がいじめにあっていた事実を突きつけられても事なかれ主義を貫く両親を見るに、問題解決のための介入自体は必要ですが、鴉羽さんの態度に不安が募ります。

 

ケンジローことケンジロウと、アイドルのエリちゃん再び

150話の舞台は両生類人の集落。義勇兵として両生類人と一緒に戦った日本人のケンジロウ。

ケンジロウの参戦の理由は、母親の政治運動の都合とのことでしたが、紛争終結後、彼は両生類人の集落に自分の居場所を見つけることができたようです。

そこへやってきたのは日本のテレビ局の御一行。

テレビクルーの中に大仰な装備を付けた人がいるなと思っていたら、アイドルの人魚・エリちゃんでした。大仰に見えた装備も、探検グッズではなく人魚の歩行補助機械。

エリちゃん自身がCMに出演していた歩行補助機械とも、プライベートで使っていた動力付きの車椅子とも違うものです。探検用の密林仕様なのか、メーカーの設計思想の違いか、なんにせよ歩行補助機械にはいろいろなタイプがあるようですね。

ついこないだまで紛争をしていた土地で、あまりにも考え無しの行動をするテレビクルー一行。クルーの内、まともな状況判断ができるのはエリちゃん1人。

愚かな人はとことん愚かに描かれるこの漫画ですが、さすがに今回は「この人たちよく今まで生きてこれたな」と思いました。海外ロケは初めてではないようでしたので。

もっとも、エリちゃんも鰐の出る川で、背後の黒豹に気付かずに水浴びをする等、危なっかしい場面がありましたが。こういった迂闊さは大自然の驚異に不慣れな現代人という感じです。

突然押しかけてきた上に、横柄で、言葉は通じるのに会話が半分くらい成立しないテレビクルー相手でも、締めるところは締めつつ、相手の都合も考えてあげるケンジロウ。

黒豹や鰐からエリちゃんを颯爽と助けるケンジロウ。

両生類人たちとの絆が厚いケンジロウ。

最初から最後までケンジロウの人間的魅力で話をまとめるのかと思っていたら、衝撃のラスト。

エリちゃんは南極人絡みの怪獣と嫌な縁がありますね。今回は南極本国ではなく、地理的に近いタワンティンスーユ絡みだったのかもしれません。

 

人魚のエリちゃんと角についてのあれこれ

実は150話でエリちゃんの名前が出てくるまで、彼女が人魚のエリちゃんと同一人物だと思っていませんでした。

15巻の112話でニルちゃんと一緒に仕事をして、自信を持っていた歌で完敗して落ち込む姿が描かれていましたが、角の形が水人の祭事(6巻、35)や、歩行補助機械のCM (8巻、48)の時と違ったからです。2本角は共通ですが、以前は頭の前の方でねじれている角で、今は頭の後ろまで緩やかに伸びてからねじれている角です。

人魚と角人(あるいは牧神人)の混合形態で、職業:アイドル、髪の色や、顔の特徴と、これだけ共通している時点で同一人物と考えるべきでした。

しかし、人魚形態の特徴として容姿に恵まれ、歌唱力が高いという話があったので、芸能関係で活躍している人魚は多いのではと考え、長耳人と人魚の混合形態のボイストレーナーさん等も登場していたので、エリちゃんの件もてっきり他人の空似かと思っていました。

むしろエリちゃんの名前が出てきた時に、「キャラクターのデザインはしっかり一貫してほしい」と失礼なことを考えていました。

ところが、150話のラストではっきり彼女の後頭部が描かれる描写があり、角の成長過程が想像でき、私の勘違いが判明しました。※そこまでの間にも角の先端のねじれが分かる描写はありましたが、ラスト1コマの構図は角の形が一目瞭然。

村山先生、申し訳ありませんでした。

角が伸びただけだったのですね。読み返すと8巻の時点で少し伸びているような気もします。

しかし、そうすると今度は、角人の角に関する疑問が沸々と湧き出てきます。

恭子や鴉羽さんなどと比較すると、角の伸び方が極端な気もするのですが、成長する時期に割と個人差があるのでしょうか。それとも生涯のび続けるのを削って形を整えているのでしょうか。

翼人の輪毛を故意に切ると形態差別罪になるそうですが、角人や牧神人の角についてはどうなのでしょう。生活に不便そうな大きな角をそのままにしている人もいるので、この辺りのルールはありそうです。

疑問は尽きません。いずれ明かされる日を楽しみに待っています。

 

 

 おまけページの人魚特集も、今まで明かされてきた内容を補足すると同時に、新情報もあり、とても興味深い内容でした。
 
人魚のエリちゃんは怪獣が出るという噂に反応していましたが、タゴン氏の姿が世界中に放送された時に彼女がどういう反応をしたのかが、いまだに気になります。さぞやいいリアクションをしてくれたと思うのです。