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緻密に描かれる復讐劇と人間の“貌” : モンテ・クリスト伯爵 レビュー

 

タイトル:モンテ・クリスト伯

 著者名:森山絵凪、原作:アレクサンドル・デュマ

  年代:2015年

  巻数:全1巻

 

あらすじ・概要

 マルセイユの船乗り、エドモン・ダンテスの人生は順風満帆。美しい婚約者との結婚も決まり、仕事では次の船長に抜擢されました。

 しかし、一通の手紙と人の悪意が、彼の人生を狂わせました。

 身に覚えのない逮捕の後、自分の罪状も分からず、裁判もないまま牢獄に囚われたエドモンは自身の無実を叫び続けますが、それが聞き入れられることはなく、孤独と絶望は深まるばかり。

 ついに死を望むようになった頃、獄中で1人の司祭と出会いました。

 司祭の知識と知恵によって、自分が陥れられた真相にたどり着いたエドモンは復讐を誓い、そのために司祭に教えを求めます。

 エドモンが無実の罪で投獄されてから20年以上の年月が過ぎた後、1人の人物がパリの社交界に姿を現します。

 その名はモンテ・クリスト伯爵。豊富な知識と莫大な財産を持つ彼の登場は、壮大な復讐劇の幕開けでした。

 

善と悪という人間の両面が表情豊かに描かれる

 この作品の原作は世界的な復讐劇として有名ですが、漫画としての面白さを語るならば、緻密な絵と登場人物1人1人の「表情」が凄いという点をまず挙げたいです。

 復讐劇という意味でも、人間ドラマという意味でも、その表情の描写と見せ方によって凄みを出しています。

 嫉妬、憎悪、怒り、暗い愉悦、慟哭、自嘲、軽蔑といったものから、喜び、感謝、感激、父性愛、母性愛、懐古の涙といったものまで、人間の負の感情や悪魔のような部分と、それと相反する善性の部分が、絡み合うように1つの物語の中で魅せつけられます。

 特に主人公に関しては、1人の人間の持つ善と悪の部分、正と負の面が、それぞれ表出する様子がこと細かに描かれています。

 突拍子もなくころころと変わるわけではなく、1つの感情ばかりに注視するのでもなく、感情の変化や思考の流れを読者がたどれるようにしたうえで、怨敵、恩人、関係者1人1人まで、表情が丁寧に描かれていて隙が無いです。

 1つの絵、表情から、その内面の複数の感情をうかがい知ることができ、表情の変化を段階的に見せることで、その心の内の思考や感情の移り変わりも見せつけます。

 漫画である以上、表情の描き分けは当たり前の技術で、変化を段階的に見せる演出はありふれたものかもしれません。しかし、この作品はその緻密さと迫力が段違いです。

 緻密さというのは単に絵の精密さのことだけでなく、その人物の心の内側で渦巻いている感情の1つ1つが、絵を見ただけで伝わってくるということです。

 復讐劇としての物語の面もこの表情描写によって十分な迫力があり、構成もしっかりとされているため、読んでいて祖語や説明不足を感じることはありませんでした。

 背景の景色や建物、人が身に着けている衣服や装飾品も細やかに書き込まれています。

 しかし、ページ数の関係で削られたエピソードもあるようなので、原作ファンには納得がいかない方もいるかもしれません。※私は漫画作品として触れたのが初めてで、原作小説は読んでおりません。

 また絵が細かく、情報量が多いため、漫画を読みなれていない人は疲れてしまうこともあるかもしれません。

 

こんな人にオススメです。

  • 緻密な絵と、精密な構成で繰り広げられる濃い漫画を読みたい人。
  • 迫力のある感情描写の復讐劇が読みたい人。

 

こんな人にはオススメできません。

  • 細かいコマや、情報量の多い漫画が苦手な人。
  • ページ数の制限と漫画としての再構成のために、削られたエピソードがあることに納得できない人。