コミックコーナーのモニュメント

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セントールの悩み15巻 感想


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 冒頭のカラーページの4コマ漫画は、いつもの漫画とはまた違う感じで楽しめました。セントールの悩み15巻の感想です。

 

歴史清算委員会の襲撃

 109話では、姫乃たちの学校が歴史清算委員会を名乗るテロリストに占拠されてしまいました。

 歴史清算委員会は「支配者として人民を苦しめてきた特定形態の罪を清算するのだ」などと宣巻き、生徒たちに銃を突きつけ、姫乃を処刑しようとします。

 4巻での姫乃の父方の実家のエピソードで、世が世なら姫乃と紫乃ちゃんはお姫様だったという話がありました。その際によそでは言わないようにと、紫乃ちゃんに念入りに口止めをしていた理由が漸くわかりました。こういう連中がいるからですね。もっとも、今回はただ人馬形態であるというだけで、処刑されそうになってしまったわけですが。

 占拠事件自体はあっさりと終了。緊急時に小競り合いをしていただけの警察、内務省憲兵隊をよそに生徒たちが連携して解決。これまで助兵衛な印象しかなかった小守君の活躍ぶりにインパクトがありました。

 それにしても御霊さん。犯人に同調しているのは演技なわけですが、演技の中に本音らしきものが混ざっています。拳銃を突きつけられている姫乃に言いたい放題。

 余裕のない姫乃や、引き気味の犯人たちの反応をよそに、ノリノリの演技をする御霊さんに笑ってしまいました。

 他の学年クラスでも、綾香ちゃんや、鴉羽さんが犯人たちを撃退していたということですが、それ以外のクラスはどうなっていたのかが、少し気になりました。

 姫乃たちのクラスでは姫乃だけが処刑されそうになっていた点、同じ組織が人魚形態居住区を襲撃していた点を考えると、人馬・人魚のいるクラスだけを狙ったということなのかもしれませんが。

 占拠事件後、御霊さんにお尻を触られた姫乃が、体の反射で後ろにいた犯人を蹴り飛ばした話から、姫乃が過去に経験した痴漢事件の話になりました。

 姫乃に痴漢をして蹴り飛ばされて、逆恨みで訴えた男が、裁判中に露骨な形態差別発言をします。

 この男は、その場で殴り倒された上で緊急逮捕されたわけですが、死んでもおかしくない、死んでもかまわないという殴り方をされています。

 今まで話に出ることはあっても、具体的な描写の少なかった形態差別者への対応が描かれたわけですが、司法機関の中で、職員が殺す勢いで殴り倒しているところを見ると、形態差別者は、人間扱いしなくともよいという考え方は社会通念の様です。

 以前、羌子が言っていた「思想矯正所行きは実質死刑」という言葉に納得がいきました。

 

怪獣騒ぎあっさり解決

 14巻で怪獣映画張りの上陸から、非暴力デモをした怪獣ことタゴン氏。今回はまさに怪獣映画の撮影シーンからの登場になりました。

 怪獣映画に怪獣役の俳優として出演するタゴン氏と、その光景を見ながら冷静に「ごく自然に人類社会に溶け込んでいる」と会話している南極人がシュールです。

 某国大統領の部屋や、地球外の宇宙菌類たちの様子までピンポイントで監視できる南極人の技術力については、今更突っ込むだけ野暮でしょうか。

 怪獣サイズの巨人の登場は、世間で話題にこそなっているものの、そこまで大騒ぎにはなっていない様です。

 元々人類自体が様々な形態で生まれてくる世界で、歴史的にはごく最近の南極人との接触などがあったせいでしょうか。我々の世界で怪獣が出たらもっと騒ぎになりそうですが、あっさりと受け入れられている模様。

 仲間に無断で紛争に介入したスリスルスルスーラと、その逮捕に向かったファルシュシュの方もあっさりと決着。

 お互いに停止命令を出せるせいで、南極人戦闘種がまったく役に立たなくなるという膠着状況になりましたが、最後はファルシュシュが騙し打ちのカンフーキックでKO勝ち。

 南極人にとって身内に離反者が出るというのは、哺乳類人にとっての怪獣騒ぎよりも、よっぽど非日常的な出来事だったようです。

 効果音が「ポカッ」のカンフーキックでスリスルスルスーラがあっさりとダウンしていたり、回想の中に、ジャージ姿でパソコンの指導動画を見ながら、1人カンフーの練習するファルシュシュが登場したり、ダウンしたスリスルスルスーラの横で片足立ちのファルシュシュがいつまでもゆらゆらしていたりと、何から何までシュールです。

 哺乳類人と感覚がずれているせいで、種族単位で天然ボケの空気を出す南極人がかわいくて仕方ありません。

 

これでもかというくらい風刺

 宇宙民主主義を提唱する人馬率いるエイリアンたちの蜂起の結果、侵略型宇宙キノコは別の宇宙に撤退。

 しかし、119話ではその残党らしきものが、ちーちゃんたちの学校を襲撃。完全に学校に侵入した変質者兼通り魔といった構図になりました。

 劇中のテレビ番組では、テロの起きる背景や、防犯について報じられていましたが、マスコミの描き方が、段階を踏んで変わるのが特徴的でした。

 1つ目の番組で切々と持論を語る専門家は、普通の外見・等身大の人間として描かれています。

 2つ目の「何にでも精神論を持ち出す人」が出てくる番組では、コメンテーターの顔がやや芸術的になっています。

 3つ目の番組には「なんでもかんでもゲーム・マンガ・アニメのせいにする人」や、「なんでもかんでもレッテル張りして貶めようとする人」が出てきます。討論番組の様ですが、発言の内容も極端で、まともに議論が成立していません。出演者の顔が人間とは思えないほどデフォルメされていました。

 現実的な画には見えない程デフォルメされた出演者と、短く、極端ながらも、「これらの人」の特徴をとらえた発言も相まって、これぞまさに風刺と言った趣でした。

 この漫画は我々とは別の進化をたどった人類の架空の社会を描きながら、そこに現実の世界や社会を投影・風刺していますが、この回は特に皮肉が効いていました。

 

 

 紛争も、怪獣騒ぎも、宇宙菌類の話も思いのほかあっさり決着しました。宇宙菌類は元々2種類いたわけですが、少なくとも侵略型宇宙キノコの本隊は退場。

 今回は冒頭にカラーの4コマ漫画が収録されていましたが、普段の『セントールの悩み』とはまた違う、わかりやすい面白さでした。

 いつもの『セントールの悩み』も大好きですが、4コマは4コマでまた読んでみたいです。