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魔女の下僕と魔王のツノ4巻 感想


魔女の下僕と魔王のツノ 4巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

 

 夜の魔王城の探索から始まり、物語はついにレイたちの故郷である極北の地ヒュペルボレアへ。魔女の下僕と魔王のツノ4巻の感想です。

 

極北の地ヒュペルボレア

 魔女ビビアンの家に滞在中のエリックですが、実家から家出中のレイの件もあり、これ以上両親に心労を掛けたくないとのこと。

 そんな訳で、アルセニオは「エリックの友人で心臓病を研究している医者のシリウス」としてレイとエリックの実家であるリリエンソール家へ長期外泊の説明と挨拶に行きます。ベティは猫に変身して同行。

 今まで魔女の家と魔王城を行ったり来たりしながら話が進んできたわけですが、ヒュペルボレア編では大勢の人との交流が描かれて一気に賑やかになりました。

 お互いに自分の知らない文化に触れ、自分の文化を説明するという異文化交流の形で、ヒュペルボレアの文化や、アルセニオの故郷イスパニアとその国教であるトノコ信教についても語られます。

 アルセニオが意外と近代的なヒュペルボレアの図書館に驚いたり、ロイドの父親であるルイスが北国情緒のある犬ぞりで迎えに来たり、アザラシを食べるヒュペルボレアの食文化に驚くアルセニオと、アザラシを食べない食文化に驚くルイスが、お互いにカルチャーショックを受けたりと、異国の地を訪ねる楽しさが感じられました。

 犬ぞりが魔法で空を飛び、それにドラゴンの子供が並走してくる場面では、ファンタジー世界の風情といいますか、現実に存在しない空想だからこその楽しさと言いますか、幻想的なものに対するワクワク感が味わえました。

 

ロイドの心中は如何に…

 エリックの女性化の魔法は解除に際してキスが必要なわけですが、隠れ家的な拠点から実家へ移動する段になってもエリックは女性のまま。※エリックは家族にも魔女の魔法のことを隠しています。

 そのことを指摘したロイドへの返答は「大丈夫だよ。アルセニオがいる」でした。

 エリックに他意はなさそうですが、ロイドはこれに反応。強引にエリックの唇を奪って魔法を解除します。

 エリックが立ち去った後も寂しそうに視線を下げる等、ロイドの反応が意味深です。ロイドはレイのことを「女でいるうちは俺の嫁だ」と言っているわけですが、エリックのことをどう思っているのかが気になります。

 そんな「俺の嫁」ことレイは、アルセニオとエリックのキスを阻止したことを称賛します。ロイドとエリックがキスしたことに対する嫉妬は一切見られず。

 エリックの件もあり、複雑な心境で落ち込んでいる様子のロイドをよそに無邪気な称賛をした挙句、目をキラキラさせながら「キスってどんな味がするんですか?」と容赦ない追い打ちをかけるレイに笑いました。

 

賑やかなリリエンソール一家+ルイス

 リリエンソールの家ではエリックの友人を一目見ようと家族が勢ぞろいで待ち受けていました。両親はもちろん、既に嫁いでいる妹3人に、長女の息子が2人、これにルイスも追加で物凄く賑やか。

 双子と思しき長女の息子たちが子供好きのルイスにまとわりつき、エリックの妹でレイの姉である三姉妹は姦しく、知的な紳士という感じの父・クラウドにおっとりした母・イヴと、仲のいい家族+αが大集合で、その場の楽しげな空気が伝わってくるようでした。

 特に三姉妹は仲良くエリックの出立を寂しがり、息の合った連携でアルセニオを質問攻めにする等、見ていて楽しかったです。

 この姉たちが女になったレイとどう接していたのか、それからもしもエリック(女)と引き合わせたらどんな反応をするのかが気になります。後者は特に見てみたいです。

 

忠実なる魔女の下僕アルセニオ

 エリックの家族と長い付き合いの地元の霊媒師、サム。

 アルセニオが魔物であることに気が付いたサムによって、アルセニオは「除霊」されてしまいます。体から悪い精霊、トノコ信教で言うところの悪魔を取り除くことで魔物を人間に戻す儀式です。

 まだ戻るわけにはいかないと言うアルセニオの言葉にサムは聞く耳を持たず、儀式は成功。アルセニオは体に憑りついていた精霊と魔物の力を失いました。

 リリエンソールの家で目覚め、状況を改めて把握したアルセニオは魔物の力を取り戻すためサムの元へと走ります。

 自身の魔物としての在り方を疎み、人間としての人生に憧れていたアルセニオが、ビビアンとベティのために戦える力=魔物の体を取り戻すために走る展開が熱いです。

 エリックに「君はこのまま、人間としてやり直せるんじゃないのか…?」と指摘されたアルセニオのわずかな葛藤とその時に浮かんだイメージは、断片的な情報ながらも、人間としての人生に対する強い憧れと、それを投げ捨ててでも守りたいものがあるということがしっかりと伝わってきました。

 転んですりむいて、魔物の体ならあっという間に治る傷を負いながら言った「ああクソ、痛い、人間痛い」というセリフも、人間へのあこがれを持ちつつ、魔物の力を求めるアルセニオの複雑な心境が端的に表現されていてとても熱いです。

 

 

 夜の魔王城探索から帰還後、アルセニオの魔力切れによる無意識のセクハラとその後の顛末には笑いました。ロイドに責められるアルセニオを庇い、1度は大丈夫だと言った後で、改めて真っ赤になり、自分自身でも理解不能なぐらいにアルセニオを意識してしまうレイが面白かったです。

 憧れていた人間としての人生を捨ててでも、ベティのために走るアルセニオ。ヒュペルボレア編は佳境を迎えたところで次巻に続くとなりました。