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セントールの悩み17巻 感想【ネタバレを含みます】


セントールの悩み(17)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 今回の表紙は御霊さん。帯にも大きく「翼人×青春」と出ていたので、さては御霊さんの出番が多いのかなと思っていたのですが、読み進めると度肝を抜かれました。

 御霊さんの過去、御霊家の秘密がまた1つ明らかになるセントールの悩み17巻の感想です。

 

スーちゃんの妹の妹

 今回はスーちゃんの妹の妹が登場。今までにも何度か出てきた子ですが、スーちゃんの口から「妹の妹」であることが語られました。※南極人は皆1人の女王から生まれますが、幼少の頃に世話をした人・された人の関係を哺乳類人の姉妹に当てはめて姉・妹と呼びます。

 屋外活動に連れて行ってもらえることに喜び、喜びのダンスを披露。「姉」であるニルちゃんの影響でしょうか。かわいいです。

 それに拍手をする周りの南極人の子供たちもかわいいです。

 スマホでスーちゃんに「南極の春」の写真をお届けしていましたが、このスマホはニルちゃんに貰ったのでしょうか。

 この子は好奇心旺盛で、哺乳類人社会に送り込んだタゴン氏をどうするか等を話し合う会議の場にも紛れ込んでいました。

 子供が簡単に紛れ込める場所で重要な会議をする大人の南極人たちも、南極人戦闘種につまみ出される妹ちゃんの様子も、どちらもシュールでかわいいのですが、南極の機密がSNSで拡散されたりしないか、少し心配になりました。

 

宇宙菌類の哀愁

 本体と分断され、地球に取り残された宇宙菌類・侵略型宇宙キノコたち。

 南極人たちの目を逃れ、哺乳類人に駆除されないように潜伏する彼らですが、人間に取り付いて「個性」を獲得したことで、意思統一が困難になり、離反する者も出てきました。

 登場したばかりの頃のいかにもエイリアンといった宇宙キノコたちよりも、大分人間臭くなってきています。本体から切り離されたせいかもしれません。

 人間に倣って民主主義で意思統一しようとするも、そもそも「民主主義」というものをどう解釈するかで意見が割れる始末。「本物の民主主義」や、「(民主主義の)変則的対応」といった言い回しには、我々の社会に対する皮肉が程よく効いていました。

 ある宇宙キノコは社会に潜もうとするも、仕事がうまくいかずに所持金が付きました。

 ならば働かずに生きていける体に取り付こうと、学生に目を付けたまでは良かったのですが、狙った相手がよりによって姫乃。本人に気付かれることすらなく排除されてしまいました。

 御霊家を狙った別の宇宙キノコも、神社の御祭神にパクリとやられてしまいました。

 人知れず忍び寄り仲間を増やしていく恐るべき宇宙キノコですが、社会の荒波に押し流されて、侵略するはずが逆に人間の文化に浸食されて、自分たちよりも理不尽なモノたちに敗北。そんな彼らに哀愁を感じました。

 

御霊さんの過去。驚愕と納得の135話

 主婦業、巫女業、学生業をこなし、何かと手のかかる妹たちの面倒を見て、生徒会の活動にも参加し、学業成績は地域でトップクラスの進学校で学年2位の御霊さん。

 御霊さんは人並み外れた気力と体力、何よりも強靭な意志の力を持つ努力の人で、頭脳や運動神経といった才能に恵まれた姫乃たちとは、また違うタイプの超人であるということがこれまでの話でも語られてきました。

 しかし、そのことを踏まえても、135話には度肝を抜かれました。

 現代よりも少し過去のエピソードで、時期はちーちゃんが生まれる直前か生まれた直後のタイミングの様です。

 お話は御霊さんと、その母方の祖父が、鳥居の下で対峙している所から始まります。

 御霊さんはこの日、実の祖父を闇に葬ろうとしていました。

 御霊祖父は幼い御霊さんを虐待し、剣術の修行を強要していた人物です。御霊家は謎が多いので詳しい事情が分かりませんが、何故この人が野放しになっていたのを疑問に思わずにはいられません。

 御霊さんは新たに生まれる妹たちを御霊祖父の魔手から守るため、この日「死合い」を挑みます。

 2人のやり取り自体はそれほど長くはないのですが、御霊祖父の言動からは、独善と呼ぶことすら憚られる身勝手さを感じて、読んでいてむかむかとしたものがこみ上げて来ました。

 御霊さんは木刀で打ち据えられても執念で立ち上がり、「殺す気の相手にオケイコ気分」な御霊祖父の心構えの隙をついて仕留めます。

 もう二度と剣を握れないようにしっかりと引導を渡した後で、病院に電話。

 稽古中の事故を装い、父親にも平然とその話を伝える御霊さんの落ち着き様には驚きます。

 命までは取らなかったようですが、御霊さんのしたことは公にはなっていません。

 脅迫などで口を封じたか、もっとほかの手段を取ったのかもしれませんが、いずれにしても、御霊さんは祖父の口から自分のしたことが漏れることが絶対にないように、十分な計画をした上で行動しているように見えました。

 ここで一番驚くのは、当時の御霊さんの年齢です。

 11巻でちーちゃんが小学校に入学した時、御霊さんは高校2年生に進級しました。

 小学1年生の年齢が6~7歳。高校2年生の年齢が16~17歳。姉妹の年齢差を考えると、この時の御霊さんは9~10歳。

 小学校中学年にして実の祖父を闇に葬り、完全犯罪を成立させたことになります。

 この事実だけ取り上げると、御霊さんがサイコパスか何かみたいですが、御霊さんは被害が自分1人ですんでいる内は、祖父による虐待も甘んじて受けていた節があります。

 御霊祖父が野放しだった件からも、周囲の大人に助けを求めることもせず、自分1人で耐えていたことが窺えます。

 恐らく、病床の母や、仕事と母の介助で余裕のない父親をはじめとした御霊家の大人たちに、負担を掛けまいとしていたのではないでしょうか。

 御霊さんの行動の動機は、あくまでも家族と、新しく生まれる妹たちを守るためです。

 生まれてきたちーちゃんに笑いかける御霊さんの顔に影はなく、そのことからは怖さよりも、家族を守ろうとする強さが感じられました。

 135話の後半は、数年後のちーちゃんの誕生日が描かれています。

 誕生日という特別な日にたっぷりと妹たちを甘やかす御霊さんと、幸せそうなちーちゃん。御霊さんが描いた「象さん」のクオリティーが異様に高かったり、3人のちーちゃんと1人の御霊さんによる交代制の肩車だったり、まだ高校生にもなっていない御霊さんが、動物園の職員に大学生と間違われる等、ごく普通の楽しい日常回になっていました。

 重たい前半と、幸せそうな後半で、だいぶ雰囲気が違いましたが、全体を1つの話として見ると、御霊さんが今の御霊さんになった経緯と、御霊さんの持つ人間離れした精神力に納得のいくエピソードでした。

 

これまでの御霊さんを振り返って

 17巻の感想という視点からは少しズレているかもしれませんが、少し気になって今までの御霊さんに関するエピソードを読み直してみました。

 すると、思いもよらないところに伏線らしきものがあったり、今まですっきりとしていなかった場面にいろいろと想像の余地が出てきたりと、驚くことになりました。

 例えば、5巻の27話のやり取りです。

 クラス内の何気ない会話ですが、そこに「だから妹達の為に私は何でもするつもり。人倫に悖るコトでもね」という御霊さんのセリフがあります。

 このセリフのコマだけが暗い色調になっていて、周りから少し浮いています。この「人倫に悖るコト」というのが、135話で明かされた御霊祖父の一件なのかと納得すると同時に、意外なところに隠れていた伏線に驚きました。

 他にも、13巻の92話のちーちゃんの授業参観の日のエピソード。

 絵描きである父親の作品に勝手に手を加えて完成させ、芸術家としての誇りを踏みにじり、そのことを言及され「じゃあ、私を殴って」という御霊さん。

 言葉を尽くして御霊さんに言い聞かせようとする父親に、真顔で上のセリフを言った御霊さんですが、父親が殴らなかった後は、妙に嬉しそうな顔で父親に追い打ちをかけています。正直怖いと思いましたが、135話を読んだ後だと印象が変わりました。

 芸術家の父親と、剣術家の御霊祖父。どちらも自分の道を追求する生き方をしています。

 父親としての生き方と、絵描きとしての生き方の間で揺れ動く父親に、やきもきしている御霊さん。

 それなのに、父親が芸術家としての誇りを踏みにじられても手を挙げなかったことに妙に嬉しそうにしているのは、祖父と父親の違い、そこにある家族の愛を噛みしめているからではないかという想像が働きました。

 135話を読んだ後だと、これまでの御霊さんの印象がだいぶ変りました。というよりも、いろいろなことに納得がいったというべきかもしれません。

 

鴉羽さんと犬木さん

 136話では、生徒会の副会長選で鴉羽さんと犬木さんがぶつかりました。

 オカルト科学部あらため民俗学部に入部した鴉羽さんと違って、今まであまりスポットライトの当たらなかった犬木さんですが、ライバル関係の鴉羽さんとは好対照。

 鴉羽さんは外見、頭脳、運動能力に加え、超能力染みた眼力まで持っていて、生まれ持った自分の能力故に、基本的に周囲を見下しています。その上で媚びたり、眼力で誘導したりと要領よく振る舞います。

 犬木さんは非常に優れた体力・運動能力を持つ一方で、要領はあまりよくない様です。ただ、目標を定め、冷静に自分を見つめ、正攻法で1つ1つ積み上げていくことのできる人の様。つまるところ素直で頑張り屋。

 ライバル関係も、鴉羽さんは犬木さんをライバルと認めないと言いながら、犬木さんを明らかに意識していて、一方の犬木さんは鴉羽さんの性格を理解した上で、それも含めて認めている様子。ムキになる鴉羽さんも新鮮でした。

 結局、副会長選は票が同数になり、2人とも副会長になりましたが、この2人の関係は見ていて面白かったです。

 

 

 今回明かされた御霊さんの過去には本当に驚きました。

 ただ、御霊さんの人間離れした意志の力や、怖いくらいの情の深さに不思議と納得できるようになりました。

 未だに明かされない御霊母の不在の理由に加え、あの御霊祖父が野放しになっていたこと等から、昔の御霊神社にも何やら語られるべきエピソードがあるように思えてきます。

 御霊さんの過去が明かされても、御霊家の謎は深まるばかりです。