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ゴブリンスレイヤー1巻 感想【ネタバレを含みます】


ゴブリンスレイヤー 1巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)

 

 この漫画は同タイトルの小説を原作とするコミカライズ作品です。

 絵も綺麗で、演出や構成もしっかりとしていて、漫画としてのクォリティーが非常に高く、物語の世界に引き込まれました。

 ハイファンタジーの世界の裏側にある残酷なダークファンタジーの世界で、ひたすらゴブリンを狩り続ける不屈の男の物語。ゴブリンスレイヤー1巻の感想です。

 

「剣と魔法の世界」の様式美

 冒頭部分に迫力のある場面のカラーページがありますが、そこから時間を遡り、物語は冒険者志望の新人「女神官」が初めて冒険者ギルドを訪ねたところから始まります。※この物語、登場人物の名前は意図的に伏せられている様です。

 冒険者たちの身に着けている装備品ですが、実用性に納得のいくものの中に、明らかにデザイン性重視のものが混じっている辺りに、「剣と魔法の世界」・ファンタジーRPG(ロールプレイングゲーム)的な様式美を感じます。

 様々な装備を身に着けて行きかう冒険者や、しっかりした作りのカウンターのあるギルド、きっちりと制服を着こんでテキパキとした応対をする受付嬢などを見ていると「そういうもの」としてしっくりと来ます。

 曖昧にぼかした描き方をされるのではなく、細部までしっかりと描かれた冒険者ギルドのフロントの景色は、世界観が目に飛び込んで来るかの様でした。この場面の時点でワクワクが止まりません。絵が綺麗なのもワクワクを大きくしています。

 新人へのガイダンスの形での冒険者についての説明や、他の場面での世界観についての説明も、すっきりと読めました。説明不足にもならず、冗長にもならず、物語として自然な流れでスムーズに情報が入ってくるのは助かります。説明不足だといまいち世界観に浸れませんし、冗長だと白けてしまいます。

 その点、この漫画の説明はとてもスマートでした。

 

最弱の怪物・ゴブリンを侮った冒険者の末路

 受付嬢の説明に割り込む形で声をかけてきたのは、女神官と同じ新人冒険者の一行。

 女神官は彼らに乞われ、「最弱の怪物」であるゴブリン退治に同行します。しかし、受付嬢は彼らがゴブリン退治の依頼を受けることに不安がある様子。その様子に気が付いたのは女神官だけでした。

 女神官の心配は一笑に付され、準備不足、話を聞かない仲間、巣の中でも武器を構えずにおしゃべりを続ける等、この一行には失敗の予感しかしません。ゴブリンを弱い魔物と決めつけて、油断しきっています。

 その結果は凄惨の一言。

 失敗は予想通りですが、その結果の残酷さは予想以上のものでした。

 冒険者たちがどんな目に遭ったかの描写も十分に残酷ですが、間に挟まれる回想によって、それぞれの持っていた夢や、志までもが踏みにじられていることがはっきりと伝わってくることが、ことさらに惨いです。

 起きていることの直接的な残酷さ、若者がその将来もろともに、夢や、誇りを踏みにじられる惨さ、見積もりの甘さや、1つのミスが致命的な結果につながるという無慈悲な現実。そういったものがこれでもかと言うぐらい描写されていました。

 こういった残酷描写が苦手な人は、読んだだけで気分を悪くしそうです。

 この物語における「ゴブリン」という怪物は、村を襲い、女を攫うという怪物らしい怪物ですが、記号としての怪物らしさでは済まない、人間の醜い部分を煮詰めて濃縮したかのような生々しい残虐性が、これでもかというぐらいに伝わってきます。

 仲間の悲鳴を背に、死にかけの女魔術師を連れて、必死にゴブリンから逃げる女神官の胸中の描写も凄かったです。

 ゴブリン退治を受けた時からの様々な記憶の断片が入り乱れる胸中。受付嬢の心配そうな顔や、ゴブリンを侮って軽口をたたく仲間、冒険の経緯、その末路。混乱と、後悔と、絶望がそれぞれしっかりと伝わってくる表現でした。

 

その名はゴブリンスレイヤー

 ゴブリンに追いつかれ、絶体絶命の女神官を助けたのは「ゴブリンスレイヤー」と呼ばれる冒険者。ゴブリンだけをひたすらに狩り続け、事実上の在野最上位である「銀等級」にまで上り詰めた異端の冒険者です。

 ゴブリンの短剣に仕込まれた毒。洞窟の暗さと、一見意味のありそうなトーテムポールを使った視覚を誘導する罠。それを利用した隠し穴からの奇襲。ゴブリンスレイヤーの現場検証と解説から、新人の一行が全滅に至った理由と、ゴブリンの悪辣さが次々と明かされていきます。

 そして、そんなゴブリンのやり口を知り尽くし、その裏をかく徹底した対ゴブリン戦術で、次々と殺していくゴブリンスレイヤー。その戦い方も、戦闘描写もリアリティーが感じられました。

 巣の奥にいたゴブリンの子供にも容赦なく棍棒が振り下ろされます。

 これまでに見てきた惨状と、外敵に怯える子供たちの様子から、ゴブリンスレイヤーの主張する理屈の正しさと、ゴブリンの子供が殺されることに抵抗を覚える女神官の感情の正しさのどちらにも納得がいって、ただひたすらに暗くて重たいシーンでした。

 洞窟の闇に響く音、淡々と作業するかのように殺すゴブリンスレイヤー、怯える子供ゴブリン、ゴブリンスレイヤーに真っ向から否定される女神官の言葉。血まみれの棍棒を持ったまま、幽鬼の様に佇むゴブリンスレイヤーに、祈りのポーズのまま蹲る女神官。

 感情を揺さぶる凄みのあるシーンでした。

 「現実」の重みや、残酷さはダークファンタジーの醍醐味ですが、この漫画は原作由来のストーリーにも、漫画的な演出にも、パワーがあり過ぎます。

 

ゴブリンスレイヤーがゴブリンを狩り続ける理由」の迫真性

 きっかけは、ギルドの受付嬢のゴブリンについての素朴な疑問からでした。

 ゴブリンが村を襲撃する頻度があまりに多く、「人を襲うのを楽しんでいますよね」という問いにゴブリンスレイヤーが答えます。

 語られるのは、人間を襲うゴブリンの心境であり、それはそのまま裏返ってゴブリンスレイヤーの過去でもありました。

 人間に巣を襲われて、見逃されたゴブリンの子供は、生き延びて巣穴の長や、用心棒といった強力な個体に育ちます。

 一方、ゴブリンの群れに村を襲われて、その惨劇を目撃し、なお生き延びた人間の子供がいたとしたら。それがゴブリンスレイヤーだったわけです。

 怒りを持ったまま成長し、許せないから、鍛えて、戦って、殺して、成功して、失敗もして、どうすればいいのか考え続け、行動し続けている内に「楽しくなってくるわけだ」と語るゴブリンスレイヤー

 この場面、ゴブリンスレイヤーが当たり前のことを話すように淡々と話を続ける一方で、その話を聞いている人たちの反応や、過去の回想、心象風景といった絵に、息をのむ迫力がありました。

 「例えば、自分の姉が襲われ、嬲り者にされ、玩具にされ、殺されたとする」のコマの幼なじみの牛飼娘の表情。

 同じ村の生き残りの彼女は、ゴブリンスレイヤーの姉のことを知っていて、このセリフでゴブリンスレイヤーが語っていることが、彼自身の心情であるとはっきりと気が付きます。そして、惨劇の夜に村に居なかった彼女には、その光景がどんなものであったのか想像することしかできません。目を見開き、息をのみながら話に聞き入る彼女の表情には迫真性があります。

 「隠れて息を殺して、見続けていたとする」のコマの過去回想。涙を流しながらも、目に焼き付けんとばかりに惨劇の光景を見続ける子供時代のゴブリンスレイヤーの目力。

 そこから暗転しての「許せるわけがない」の吹き出しが浮かぶ闇の重圧。

 「楽しくなってくるわけだ」のコマで、ゴブリンたちの屍の上に立つ悪鬼のごときゴブリンスレイヤーのイメージのおどろおどろしさ。

 これは漫画だからこそできる演出だと思います。

 淡々と語るゴブリンスレイヤーの言葉の説得力と冷たさ。それに聞き入る受付嬢と牛飼娘の緊張感とリアルな反応。狂気と執念の断片を感じられる回想と、おどろおどろしいイメージ。

 その相乗効果は凄まじいものでした。

 

 

 この物語の世界は、過去も、現在も、暗く、重く、残酷です。

 一方で、登場人物の魅力や、息抜きの様に挟まれる平和な日常パート・コメディーパートが、話が暗く重いだけのものにならないように引き上げてくれています。

 過去を淡々と語った後に、「つまり俺は奴らにとってのゴブリンだ」と話を締めるゴブリンスレイヤーに、「その理屈だとあなたに依頼を仲介している私たちはどうなります?魔神とか邪神とかその類ですか?」と引きつった笑顔で、文字通り角を生やして迫り、空気を変えてくれる受付嬢のシーンは特にお気に入りです。※角が生えるのは漫画的な表現です。

 背景や景色にも、ファンタジー世界観に浸れるだけの精緻さと風情があり、ダークファンタジーとしての現実の残酷さや、話の重み、そしてその余韻の空気までもが、しっかりと感じ取れる漫画でした。