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この愛は、異端。―ベリアル文書ー 感想【ネタバレを含みます】


この愛は、異端。-ベリアル文書-【通常版】【電子限定おまけ付き】 (ヤングアニマルコミックス)
 

 

 家族のような「無償の愛」を求める天涯孤独の娘・淑乃と、愛を否定する悪魔ベリアル(愛称はバアル)の拗れてもどかしい物語『この愛は、異端。』。

 今回は、バアル視点のスピンオフです。

 本編開始時よりも前のお話。淑乃の修学旅行と、淑乃の知らないバアルの戦いが描かれる「この愛は、異端。-ベリアル文書-」の感想です。

 

注意

 この記事は、「この愛は、異端。-ベリアル文書-」だけではなく、『この愛は、異端。』本編のネタバレも含みます。ご注意ください。

 

バアルの視点で語られる淑乃を守る物語

 5000年に1人という程の美しい魂を持つが故に、常に、神や、魔という存在に狙われ続けてきた淑乃。

 高校3年生になった淑乃の修学旅行の行先は京都・奈良で、バアルの気がかりはその旅程に「あの神」が祀られている場所がある事でした。

 悪魔の力を使って、かつて淑乃が家族を失った場所を通らないように修学旅行の経路を変えたバアルですが、それでも「あの神」の神社へ行くことを変えられなかったことを訝しみ、女に変身した姿で淑乃を追跡します。

 本編では断片的な回想と、クライマックスのラファエル襲来くらいしかなかった神霊の世界でのバアルの戦いが描かれています。元々、戦いを描く漫画ではありませんが、世界観の一部としてそういったものがじっくりと描かれたのは新鮮でした。

 淑乃が家族を失うことになった13歳の家族旅行の帰りの事故で、淑乃を狙ってきた山神こと「あの神」の正体も明らかになりますが、日本の神話や古事記に詳しくない私でも名前を知っている神様で、この展開には驚きました。

 

淑乃の修学旅行

 淑乃の修学旅行の風景も、いろいろと面白い場面がありました。

 自分の好きな漫画(神様と人間の女の子の恋愛譚)の聖地巡礼に興奮する淑乃の同級生・真弓ちゃん。水を得た魚の様な彼女をあっさりと閉口させた淑乃の長台詞は印象的でした。

 「ぶっちゃけさ?この人たち、結ばれたところで戸籍とかどうなってんの?とか、ヒロインが若いときはいいけど年取ったらどうすんの?とか、そもそもお互い理解し合えるの?とかさ……夢も未来もないよね…?」という淑乃に「よしのちゃん意外とリアリストなんだね…」と引き気味の真弓ちゃん。淑乃にとってはリアルな問題ですね。

 ずっと蓋をして気付かないようにしてきたはずの気持ちがぽろぽろ漏れちゃっています。

 この翌日も、同級生と、引率の先生と、バアルの前で意味深発言をしています。「許されない」という部分で相手わかっちゃったという真弓ちゃん。好物そうな話題なのに無理に追求しない辺りに彼女の良識が感じられます。

 他にも、パリピタイプで淑乃狙いの本田君と、彼をイケメンというクラスメイトとのやり取りも面白かったです。

 本田君を二度見し「イケメン…、…、イケメン…?」という訝し気な淑乃のリアクションと、その後の「おい、よしの、今はセンター分けの長身メガネの事は忘れろ、あれは、イケメンではなく、美形という部類だ」と異様な迫力でプレッシャーをかけるクラスメイトとのやり取りに笑いました。美形保護者はやはりクラスメイトの間でも有名なのですね。

 淑乃を影から護衛をしつつ、大量のアルバム用写真を撮影し、参考文献の「『よく分かる日本の神様』」という本を読みながら、東洋の多神教の神の在り方が理解できず、頭を悩ませる西洋の一神教の大悪魔の図というのも面白かったです。

 淑乃に言い寄った挙句、セクハラまでして、バアルに制裁された本田君の件も笑ってしまいました。

 本編の旭君に比べて大分扱いが軽い。結構な目にあっていますが、淑乃に本気で気持ち悪がられていましたし、真剣に淑乃のことを想っていた故に、あわや地獄に連れて行かれそうになった旭君に比べれば、足の骨を折って、軽く悪夢を見たぐらいで済んだのなら御の字でしょう。

 

森山絵凪先生の画力で描かれる見えざる世界の存在感

 淑乃を呼び寄せていた因幡の白兎と、バアルの戦いが勃発しますが、幼き日の淑乃のお気に入りだった神話の兎を傷つけることに気を咎めるバアル。どれだけ淑乃のことが好きなのですかね。

 それにしても、森山絵凪先生、相変わらず絵の表現力が多彩です。

 すれ違いざまにバアルの方を振り返った因幡の白兎の貌。単純に整った顔立ちや、異様に小さく描かれた黒目はもちろん、彫りの深い顔への光と影の当て方や、顔の周りのエフェクト、歪んだオノマトペの斜体まで動員されていて、異様な迫力があります。

 戦いの最中、本性を現した因幡の白兎の貌。頭からうさ耳が生えていますが、それ以上に、歪んだ目元と口元に人外感が良く出ています。

 逆上したバアルに一蹴された因幡の白兎を助けに入った「あの神」こと「大物主大神」の登場場面。境内の方から伸びている蛇の鱗に覆われた巨大な手が、因幡の白兎を掴んでいますが、巨大な手の鱗の質感や、異質な存在感、その背景の景色、画面手前で驚愕するバアルの表情、それらを表現するアングルまで完璧です。

 全体的に凄まじい画力ですが、何が凄いって、細かいコマまで全然絵が崩れていないのですよね。シリアスパートだとそれがより一層際立ちます。

 

限定版特典、小画集・四季繚乱

 私は『この愛は、異端。-ベリアル文書-』を電子書籍版の限定版で購入したのですが、限定版特典としてついてきた小画集・四季繚乱が素晴らしかったです。

 「巻第一」では、本編で使われたイラストのカラー版や、特典イラストなどが収録されていました。

 元々本編でカラー収録されていたイラストなども、仕上げの処理が違う感じになっていたものもあり、前に見た時とはまた違う味わいを楽しめました。

 1巻から3巻のカバーイラストも一枚絵で収録されていました。私が買っていたバージョンの電子書籍版(デジタル版)は裏表紙がなかったので、カットされていた部分を見ることができた点も良かったのですが、何より見開き一枚絵の迫力が味わえたのが良かったです。

 通常書籍の限定版がどうなっているのかはわかりませんが、見開きで収録されている可能性を考えると一枚絵で見ることができたのは、得をした気分になりました。

 森山絵凪先生の画力の高さと、表現力は、漫画として読む上でも好きなポイントでしたが、画集は色使いも素晴らしかったです。

 カバー絵の3枚がお気に入りです。特に3巻。

 「巻第二」は『この愛は、異端。-ベリアル文書-』の各話の扉絵+描き下ろし。和装の2人と、四季折々の植物を画面に加え、構図やポージングも官能的なものになっていました。色使いもだいぶ変わっています。いつもに比べて、冷たい感じのする淑乃の目元も印象的でした。

 「巻第二」は6枚目のベリアル文書4話の扉絵である、柳の葉と蛍の中でバアルを抱きしめる淑乃の絵がお気に入りです。全体の色使いも好きですが、一番好きなポイントは淑乃の表情ですね。

 ちなみに、「巻第一」、「巻第二」合わせて32枚中28枚のイラストが淑乃とバアルの2人のイラストでした。残り4枚は、淑乃のイラストが1枚、その他3枚となっていました。

 

 

 1~6話目の淑乃の修学旅行と、淑乃の知らないバアルの戦いであったのに対して、7、8話目は、本編でも自分には愛はないと言っていたバアルの心情描写の補完と見ることができました。

 しかし、6話目の時点で、自分の命と引き換えでも淑乃を守りたいという気持ちを自覚していた上に、7話目、8話目のあのモノローグを経て、何故その結論へ行くのかと突っ込みたい気持ちでいっぱいになりました。

 いえ、心情描写に不備があったり、いい加減な部分があったりというわけではないのです。

 正真正銘の悪魔であり、自分のことを愛という感情を持たない存在であると思い込んでいるバアルの心情描写として、納得のいくものです。

 ただ、その上で、「なんでそっちへ行くんだよ!」といいたくなるような、もどかしさを感じました。まあ、今まで通りの2人ですね。そうでした。

 エピローグでは、本編3巻で2人が結ばれた後のやり取りも楽しめました。

 ホテルでの寝相まで撮影した修学旅行写真集の存在が、淑乃にばれた時のなんでもないかのようなバアルのさわやかな笑顔。驚異の総数3632冊というアルバム冊数にも笑わせていただきました。

 夫婦になったことで、バアルの際どいセリフにも、今までとは違った反応を返すようになった淑乃も良かったです。