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ライドンキング1巻 感想【ネタバレを含みます】


ライドンキング(1) (シリウスコミックス)

 

 異世界に召喚されたのは建国の英雄にして現役の大統領。最強大統領の異世界冒険ギャグ漫画、ライドンキング1巻の感想です。

 

建国の英雄にして終身大統領アレクサンドル・プルチノフ

 異世界召喚・異世界転移・異世界転生と言ったシチュエーションの漫画は、そういったジャンルのウェブ小説がブームになったこともあり、かなり作品数が増えていますが、大抵の場合、主人公は現代の日本人です。

 日本では当たり前の現代知識や、少しマニアックな専門知識、あるいは異世界に降り立つに至った過程で手に入れた特殊能力などで活躍するといったものが多いでしょうか。

 しかし、この漫画の場合、召喚されるのは中央アジアの一角、新興国家プルジア共和国の大統領であり、独立を主導した建国の英雄であるアレクサンドル・プルチノフ。

 虎にまたがり、自国の道路を堂々と行く姿は風格があります。

 しかもこれは召喚されるよりも前の話。車の走っている公道を上半身裸の大統領が虎にまたがって闊歩する姿はいろいろ突っ込みたい気持ちでいっぱいになりますが、強い男を尊ぶプルジア共和国では指示されているそうです。

 そんな大統領にテロリストが乗ったトラックが襲い掛かります。異世界転移のきっかけとしては定番の1つであるトラックです。プルチノフ大統領は道路の石畳を踏みつけ、反対側から突き出た石畳に乗り上げたトラックに対して、背負い投げをすることで華麗に危機回避。大統領は様々な武術で数え切れぬほどの黒帯を持つ達人なのでした。もう突っ込みが追いつきません。

 そんな大統領は強い「騎乗欲」の持ち主です。騎乗欲って何なんだとまたしても突っ込みたくなります。どうやら、大統領は機械や、生物や、国家でさえも、「乗りこなす」という行為が好きだということらしいです。

 その後、何だかんだ異世界に転移してしまった大統領は、まだ騎乗したことのない存在であふれている未知の世界で「騎乗休暇(ライドンタイム)」を始めるのでした。

 主人公が最初からとんでもなさ過ぎるせいで、「ファンタジー世界で魔法の存在に驚く」という異世界転移モノとしてごくありふれた場面にも「貴方の存在の方がよっぽどファンタジーだ」と突っ込みを入れたくなります。

 また、ままならない現実に対峙したり、命のやり取りをする状況になったりした時の反応も、ごく一般的な日本人のそれとは違います。なんせ大国から武力で独立を勝ち取った英雄にして、現役の大統領ですから。

 そして、自分の騎乗趣味のことになると暴走気味になることも。

 主人公がいろいろと濃すぎるせいで、コミカルも、シリアスも、異世界転移というシチュエーションすらも、全てがギャグになります。

 その上で、それがしっかり面白いということに戦慄すら覚えました。

 

画力とギャグのツープラトン

 漫画を読んでいると、コメディー要素やギャグを過剰に盛られても、かえって白けてしまって面白くなくなるということも多いです。

 しかしながら、この漫画は画力が凄まじく、大統領の顔も、筋肉も、モブキャラクターも、街並みも、虎も、大統領に投げられたテロリストのトラックの裏側までも、非常に高い画力で書きこまれています。

 さらに、それは、異世界の風景や、ファンタジーな種族、魔物や怪物のような存在までも同じです。異世界描写のクオリティーが素晴らしいです。

 この画力の高さがあるからこそ、コメディーとシリアスの共存ができて、その上でギャグはもちろん、作品全体の面白さにも相乗効果が働いているのだと思います。

 真面目な顔で面白いことをされると笑ってしまいますよね。つまり、そういうことです。

 また、この漫画にはいろいろな漫画や、アニメ、プロレス、その他諸々のパロディーが盛り込まれています。

 私はパロディーがあまり好きではないので、普段ならここまで大量に盛り込まれていると、くどさを感じるはずなのですが、やはり高い画力のおかげか、不思議な調和があり、楽しく読むことができました。

 そうしているうちに、もうギャグでもパロディーでもないはずの場面でも、不意に自分で深読みをしてしまったり、変な連想をしたあげくに笑ってしまったり、しまいには大統領が真面目な顔をしているだけで笑ってしまったこともありました。

 高い画力で真面目な場面を描写しているだけで面白いというのは反則です。受け取る側の問題かもしれませんが、この漫画を読んでいるうちに自然とそんな感じになってしまったのです。

 

サラ、ベル、カーニャ。色々と愉快な旅の仲間

 突っ込みどころの塊である大統領ほどではありませんが、大統領の旅の仲間も色々とひどい、もとい、色々とゆかいな面々です。

 まず、異世界に到着直後の大統領に、ワイバーンに襲われている所を助けられた2人の冒険者、サキとベルの2人。

 大統領の圧倒的な戦闘力と、騎乗技術に目を付けた2人は、自分たちの金儲けのために案内役を買って出ますが、単に下心があるとか、腹黒であるというだけではなく、色々とひどいです。

 大統領が魔道具もない田舎から来たと判断したサキは、大統領に魔道具のランタンを光らせてみるように言います。

 魔道具というのは魔石というものを動力にした、いわゆるファンタジーの魔法の道具です。起動させるために呼び水になる魔力が必要で、魔力の発現もできず、魔道具を使ったこともない田舎者を揶揄おうという意図でした。

 その場にいた魔石の商人にも「意地の悪いことはやめとけよ」といわれる程度のことを命の恩人にした結果、サキはその場で失明しました。

 魔力の希薄な世界出身で、様々な武術の鍛錬をしていた結果、天然の魔力お化けだった大統領の気合の入った魔力発現により、ランタンは閃光を発し爆散。至近距離でこれを見たサキは失明し失神。

 幸い、ファンタジーな治療魔法と魔法薬のおかげで無事回復しましたが、失礼かつ下らない悪戯の結果、白目をむいて失明するヒロインの図にはインパクトがありました。

 モノローグで「この時、魔石ランタンが発した光は600000cd(カンデラ)」、「米軍の使用するM84 スタングレネードの閃光に匹敵する光量」等と妙に具体的な解説があったのも生々しさを割り増しにしています。色々とひどい場面ですが、そのひどさに笑ってしまいました。

 もう1人の冒険者・魔法使いのベルは魔法薬ジャンキー。魔法薬の過剰摂取で薬物中毒になる仕組みの設定もなかなかに斬新でした。

 錯乱して変態そのものの露出行為もしていましたが、それ以上に、焦点の微妙にあっていない濁った眼や、バランス感覚がおかしくなって微妙にふらついている描写などの表現が絶妙でした。「あ、この人やばい…」といった感じの印象が的確に伝わってきます。

 カーニャはオークに拷問された挙句、食べられそうだった所を大統領に助けられたハーフエルフ。外見は幼女。魔獣使い戦の描写からすると、実年齢は数百歳でしょうか。

 子供を見捨てない大統領に守ってもらうためなのか、本人の趣味なのか、処世術なのかはわかりませんが、執拗に幼女のふりを続けます。喋り方とか語尾とかも色々とおかしいです。

 旅の仲間たちだけ挙げてもこの有様ですが、脇役にも癖の強い登場人物が多く、笑いが絶えません。

 

かわいいホッチ。ボッチ

 ホッチというのは異世界の人類に騎乗用に変われている大型の飛べない鳥です。非常にかわいいです。ふわふわの羽毛は某ファンタジーシリーズに登場するチョコ○にも似ていますが、とぼけた感じの顔つきは大分違いますね。かわいいです。

 大統領も「なんと愛らしい…」、「~~恐鳥類?いや…クチバシがこんなに愛らしい恐鳥類など…」と絶賛する愛らしさ。

 特に大統領になついた「ボッチ」と名付けられた個体は、どことなく強者の風格があります。大統領がゴブリンに繰り出した「後ろ蹴り」を真似してものにしたり、オークに前蹴りを食らわせたり、魔獣使いを足蹴にしたりと、単なるマスコットや、乗り物役ではないアグレッシブなファイターになりつつあります。そんなところもかわいいです。

 今後このボッチが「どこまで行くのか」も楽しみにしています。

 

 

 異世界に召喚された大統領の冒険という物語としての軸はしっかりしていますが、全体的にパロディーが多く盛り込まれたギャグ漫画としての側面も強いこの漫画。

 しかしながら、生爪が剥がされるなどのギャグにならない凄惨さのある場面もあり、かと思えば、命のやり取りの場面でもギャグやパロディーをはさんでくるなど、シリアスとコミカルのバランスがかなり際どい感じがします。

 それが崩壊せずに、ギリギリでバランスが取れているのは、圧倒的な画力と、強烈すぎるプルチノフ大統領のキャラクターのおかげでしょうか。シリアスとコミカルの間にある尾根の上で、自転車の曲乗りでもするかのような、馬場康誌先生のバランス感覚に脱帽です。