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ライドンキング3巻 感想【ネタバレを含みます】


ライドンキング(3) (シリウスコミックス)

 

 魔導院(タワー)製の魔術兵器を使うジェラリエたちから攻撃を受ける集落。

 窮地を脱するために、大統領に自分たちの秘密を打ち明けるベル。プルチノフ村の反撃が始まります。ライドンキング3巻の感想です。

 

サキとベルの秘密

 大量の物資も、大型の兵器も、自在に縮小・軽量化して運び、持ち運んだ先で、元の状態に戻して使うことのできるオリジナル魔法。

 軍事を一変させる魔法を開発してしまったことで、国を越えて魔法関係の組織を司る「魔導院(タワー)」に狙われることになったベル。

 サキはサキで、大貴族・スクイード辺境伯家の令嬢であるものの、正妻の子でなかったために「ワールドクラスのクズ・オブ・クズ」を許嫁にされたり、他にもいろいろあったりで実家から逃げ出したそうです。

 さらに2人はベルのオリジナル魔法で、辺境伯家の蔵からお宝や、武具や、そして「兵器」などもちょろまかしていました。

 「これが今話せる私たちの秘密」とのことでしたので、他にも別の秘密がありそうです。

 魔導院という組織は、「国という括りを超越した魔法使いの集まり」と言うと、ファンタジー的な浪漫を感じます。

 しかし、大統領は、「要するに多国籍化した軍需産業民間軍事会社のようなものか…タチの悪い連中に狙われたものだ」と現代的な解釈をします。

 兵器関連の製造ラインも、技術者もほぼ独占した上に、その気になれば少数で戦局を変えられる特殊技能者を大勢抱え、各国にパイプがある死の商人。そう考えると、凄まじく質が悪いですね魔導院は。黒い頭蓋骨のイメージが頭をよぎりました。

 

大統領の交渉力

 兵器をかまえる相手の前で、スーツ姿で悠々と語りだすプルチノフ大統領。流石の風格です。

 プルチノフ大統領とジェラリエ・ゴルドーの交渉は見応えがありました。真っ向から対立する主義主張。大統領の堂々たる独立宣言。

 ジェラリエのちらつかせる魔術兵器を同じ魔術兵器であっさり破壊。慌てて「隼爆矢(ファルコンアロー)」を構える一団に一手早く撃ち込まれる隼爆矢。

 自分たちが振りかざしていた兵器の脅威にさらされる騎士たち。因果応報の小気味良さがあります。※隼爆矢は爆発する弩のボルトで、騎士たちこれを使って自分たちの村を守ろうとする人馬たちを虐殺していました。

 その後も、あまりに身勝手で一方的な主張をさも正論の様に言う騎士たちを真っ向から論破する大統領。

 それでも最終的には「自分たちを人馬と一緒にするな」と開き直る騎士たちに、「他者の誇りを尊重できぬ者に誇りの何たるかを説く資格はない」と一喝。流石大統領。一歩も引きませんし、僅かばかりもブレません。

 その上で、騎士たちの命を握っているのは自分ではなく、隼爆矢を構えている人馬たちなのだから、自殺願望がないのならこれ以上挑発するなと、突き放すところもいいですね。

 結局、自分に都合がいい理屈しか認めようとしない人間には、何を言っても無駄なのですから。

 流石大統領。凄まじいまでの「交渉力」です。

 この場面で、大統領の交渉力以外にもお気に入りのポイントが2つあります。

 1つ目は隼爆矢を構える人馬たちの中にいた1人の女性が、涙を流しながら歯を食いしばって隼爆矢を構えていた1コマ。

 同じ武器で誰か大切な人を殺されたのかもしれません。やり返したことで少しは報いることができたという思いか、やり返してもやりきれない思い故か、それとも、憎い相手にあえて直撃させなかったからなのか。その胸中に渦巻くものについて、いろいろと想像を掻き立てられます。

 もう1つは、このタイミングで出てきた大統領の護身用ピストルの件です。

 大統領を殺してしまえばあとは烏合の衆だと、従軍魔術師・カーヴィンが火炎魔法を使おうとします。

 慌ててケンタウロスたちが隼爆矢を撃ち込みますが、魔導院制の兵器は魔術師に対する安全策が施されているのだとかで効きません。魔導院は本当に抜け目がなくて質が悪いですね。

 しかし、そんなカーヴィンの余裕をあっさり粉砕する現代兵器・G19ナタリアスペシャル。※大統領秘書のナタリアさんが用意したピストル。高威力拳銃弾装填済み。

 普通の主人公ならば、転移後すぐに存在が判明するであろう現代兵器の持ち込みが、大統領が強すぎたせいで、このタイミングまで温存されてきました。

 憎たらしい敵の意表を突き、かつ、読者の意表も突いてくる現代兵器投入のタイミングに痺れました。

 

「人馬合体(ツープラトン)」。獣神合体プルセロス・獣神変形マルチノス

 自我を奪われたケンタウロスの族長・タクタロスにまたがり、襲い掛かるジェラリエ。

 相手が2人がかりなればと、大統領に加勢する族長の弟・マルセロス。

 恩人とはいえ、只人を背に乗せることに抵抗のあったマルセロスですが、ここで大統領の体から獣王の証である光り輝く「獣王の冠・十二亜八冠」が出てきます。

 瞠目するケンタウロス達。首を垂れるマルセロス。どうやら彼らにとって、獣王というのは特別な存在であるようです。

 臣下の礼をとるマルセロスに、優しい目で、私をその背に乗せてくれると言うなら友として乗せてくれと言う大統領。とてもいい場面です。

 大統領がマルセロスにまたがった瞬間、光り輝きます。

 ここでナレーションが入ります。「その時、プルチノフの膨大な魔力と、獣王の冠の魔力とティエンコジーの友情パワーが2人の体内で融合し」と、まるで昔の特撮ヒーローか、はたまた昔のバトル漫画の解説かと言った趣のナレーションです。

 そして、ページをめくると「獣神合体プルセロスがここに誕生した!」と、見開きで、神々しいケンタウロスに変身した大統領が登場します。

 ちなみに全裸です。書きこまれた人体の筋肉、馬体の筋肉、それらの自然な連なり。背景の広い空を流れる雲まで素晴らしい描写。それでも、いきなりこんなのが出てきたら笑うしかありません。

 シリアスな場面からの不意打ちの一発。画力が高いからこそ最大の威力を発揮するギャグ。

 しかし、そこからまさかの2発目がきます。合体した大統領が、今度は変形します。

 「獣神変形マルチノス」。今度は、馬体の上のマルセロスの胴体から大統領の顔が生え、腕は4本。「悪魔的な結合(サタンなクロス)みたいな」とはベルの言。あまり詳しくはありませんが、某超人がプロレスをする漫画でこんな人がいたような。

 馬場康誌先生やりたい放題です。漫画を読んでいて、思い切った描写や、過激な演出に驚くことはありますが、パロディーでここまで「ここまでやるか」と思ったのは初めてです。

 

ジェラリエ散る

 大統領との闘いで魔法の鎧が壊れ、半人馬(サテュロス)であったことが露呈したジェラリエ。

 権力を欲した叔父の手によって、街で謀反人として処刑されそうになりますが、彼女はそれでも、突如襲来した魔族から民を逃がすために戦います。

 かなり歪んでいますが、自分に都合のいいことばかり言っていたモブ騎士たちに比べると、彼女なりの筋の通った信念のようなものを感じます。

 彼女の出生や、育った状況、ケンタウロス達をどう思っていたか等、物語上で開示された情報は断片的です。

 画力が高いおかげで、表情描写から何となく感じ取れるものもありました。

 かなりの部分を想像で補った上で思ったことですが、彼女がこれまで浮かべていた狂気じみた笑みは、自分も含めて世の全てを嘲笑していたような気もしました。それでも、彼女には守りたかった何かがあった様です。

 構成のバランスや、ストーリー展開のテンポ等もありますので、何でもかんでも細かく描写をすればいいというものでもありませんが、ジェラリエの内面はもう少し掘り下げて欲しかったです。

 

 

 同じ時期に魔族から襲撃を受けたプルチノフ村とゴルドーの街。

 プルチノフ村は大統領が趣味全開でハッスルしただけで、ほぼ勝負がついていた感じです。興奮した大統領の一騎駆けの時点で完全にギャグでした。

 ジェラリエが命を懸けて時間を稼いだゴルドーの街の方も、シリアスな絵面の中に所々パロディーやギャグの気配を感じました。圧倒的な敵から民を守って果てるという壮絶な場面なのに、最後の言葉がどうしてもギャグとしか思えません。

 この漫画はやはりシリアスとギャグのバランスが際どいですね。そこが面白い部分でもあるのですが。